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Nikkor Z50/1.2はビオゴンタイプ?

ニコンの方々が、”このレンズはビオゴンタイプだ” と宣言されておりますが、本来のビオゴンタイプとはぜんぜん違うレンズ構成です。ここでは本来のビオゴンタイプとは何か、ビオゴンタイプのどのような特徴を取り入れたのか、どのような考えでこのレンズが設計されたと思われるかなど、このレンズのレンズ構成を見ながらレンズ設計者目線で語ってみたいと思います。
   

本来のビオゴンとは?
この図は本来のビオゴンタイプにかなり近いもので、ニコンSシリーズ(1948年~)用広角レンズ21mmF4のレンズ構成です。

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前後に強い凹レンズ、中央に凸群があるのが特徴で、もともとは超広角レンズを設計するために考案されたレンズタイプです。後群の凹レンズは像面湾曲や倍率色収差の補正に大きな役割を持っています。
下図は別のビオゴンタイプ25mmF4の中央と隅に光線が入射したときの図です。

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物体から来た光は、前群の凹レンズによって広げられ、凸レンズ群に着くときには太い光束になっています。また発散光束を結像させるには度の強い凸群が必要になり、これは中央の凸群が明るいFnoになるということを表しており、明るいレンズが設計しにくい結果を招きます。


Nikkor 50mmF1.2 のレンズ構成
一見、全然似ていません。似ている点としては、前後の端が凹レンズだということくらい。
レンズ構成やガウスタイプの進化の歴史から、このレンズ設計をしたときにどのような考え方をしたのか、推測していこうと思います。

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このレンズをよく見ると、中央にガウスタイプがあることに気がつくかと思います。ガウスタイプの後ろにある数枚がどんな役割を果たしているかは、このあたりのレンズを思い出せば見当がつくかと思います。

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ガウスタイプの後ろにレンズを追加する流れ
上記のレンズは往年の名レンズ、タムロンSP90mmF2.5マクロです。このレンズでは後部2枚は固定群で前方6枚のガウスタイプのみでフォーカシングを行うことで、繰り出しによって起きる収差変動を打ち消しています。
後期型(90mmF2.8)では固定群&ガウス群の枚数増とともに繰り出し量を更に増やし、等倍撮影を可能にしています。

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ガウスタイプの後ろに収差補正群を置いて、より高性能化するという流れは、このタムロンマクロレンズから始まったようにみえますが、当時は一眼レフ用レンズという前提があるため、90mmなどの望遠マクロと一部の望遠レンズでのみ採用されていた収差補正方法とも言えます。ビビター90mmF2.5マクロ(トキナーAT-Xと同じ光学系)も同様の設計です。

その後、ミラーレスカメラが普及してくると、ガウスタイプの後ろに収差補正群を追加した標準レンズが出てきますが、それらの多くは高画質化というよりも大口径化を目指したものが多く、下記のレンズも50mmF0.95という超大口径レンズです。(中国TTArtisan50mmF0.95フルサイズミラーレス用) なぜここまで大口径化が可能かと言うと、ガウスタイプの後ろに縮小光学系を置いたものをベースとして設計されたレンズだと考えると解りやすいと思います。イメージサークルを広めに設計した70mmF1.4の後ろに0.7倍縮小光学系を置けば50mmF1.0になります。また縮小光学系は設計しやすい光学系でもあるので、組み合わせ光学系をベースに設計するのは設計難易度的にも難しく有りません。

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ガウスタイプの前にレンズを追加する流れ
古くはガウスタイプの前にワイドコンバータを追加したような構成の広角レンズが有りましたが、近年はガウスタイプの性能向上のためにワイドコンバータに似た形状でほとんど倍率のないものを追加したものが出ていました。その流れを決定づけたのがこのツァイスレンズたと思います。下記レンズは一眼レフ用のZeiss Otus 55mmF1.4です。(製造はコシナ) このレンズの登場のおかげで、日本メーカーも大きさや価格の枷を取り払うことができたと思っています。(これが出ていなければ、大きさ・価格にこだわった結果、あまり進化できなかったと思っています)
一眼レフ前提の設計なので長いバックフォーカスが必要条件となるため、ガウスタイプ標準レンズの高性能化のためにガウスタイプの前にレンズを追加するのは正攻法とも言えます。

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そして、ミラーレスの時代へ、、、
ミラーレスカメラ前提の場合は、バックフォーカスの制約がほぼ無くなったため、両方の収差補正方式を取り入れた設計ができるようになりました。
光学系の収差を減らしていく時、絞りの前後に対称性を取り入れると前後で勝手に収差を打ち消し合うことがあるため、前群に凹レンズを入れた光学系では後群にも凹レンズを入れたほうが収差補正が楽になります。この後部凹レンズは倍率色収差や像面湾曲の補正に大きく寄与しますので、このレンズでも同様の狙いではないかと考えられます。
この点が、ニコンが ”これはビオゴンタイプです” と公言しているポイントだと思います。

ミラーレズカメラの時代になったため、ガウスタイプの前後群レンズにレンズを追加したレンズタイプを選べるようになり、その結果出てきたレンズが、Nikkor Z 50mmF1.2といえるかと思います。


ニコンのかたがビオゴンだと語っている記事を紹介

http://photo.yodobashi.com/live/interview_nikon2020/?

この記事のレンズ
やっぱり名レンズですね


途中で出てきた中国製50mmF0.95レンズ
非常に明るい割にはしっかりした写りで、けっこう小型です。

スペックを抑え、高性能化に全力を振った、ニコン的な言い方ではビオゴンタイプに分類されると思われるレンズも出てきています。それがこちら。
超高性能レンズです。

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