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親密圏のない地縁社会━━『飢餓同盟』安部公房 新潮社(1954)

余所者を「ひもじい」と呼び、仲間とは認めないある集団━━M県花園。では集団の中にいれば仲間と共に幸福に暮らせるのかといえば、決してそうではない。政治力によって得た利権を独占するほんの一人二人の資本家以外は、いつ消え去ってもおかしくないはかない存在だ。しかし外部からやって来た人間にとっては、そんなはかない彼らでも、「町の住人」であり、「ひもじい」とは身分が異なる。この「身分」を分けるのは、「地縁」だろう。

不思議なのは、そこまで強固に人の立場を決定する力を持つこの地縁が、決して他人との精神的な結び付きに寄与しないというところ。作中ではおよそ親しい同士の温かな人間関係は描かれず、家族同士さえも相手を害する。
作中で花園は「田舎」とされ、「東京」と比較されている。そして現代の我々が時に「田舎」に夢想する「温かさ」「思いやり」「絆」は一切存在しない。花園の人々にとって血縁の家族は道具であり、他人は自分の利害によってのみ関わり合いを考える。ひとかたまりの集団でありながら、その構成員一人一人はバラバラの個であり、利害以外で繋がり合うなど起こらない。
他人は脅威であり憎悪の対象なのだ。
この徹底した他人との断絶に空恐ろしさを感じるし、一方で「田舎」と呼びつつこの社会は、日本そのものなのではないか。

飢餓同盟 (新潮文庫) 安部 公房 https://www.amazon.co.jp/dp/4101121044/ref=cm_sw_r_li_dp_U_rzrMDb96X1VT5

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