ライブラリ・Beeテイカーズ

 決死の籠城も、生体認証も、設定者が忘れてしまった強いパスワードも無意味だった。
「創業200年のアーカイブが……」
「大丈夫ですよぉ、私"読むのは早い"んです」
 人間と同じ大きさのスズメバチ――それを模したスーツで全身を覆った姿から、おっとりした女性の声が答えた。前脚もとい手にはハードディスク。それが収められていたパソコンは喰い散らかされたお菓子の箱のように引き裂かれている。
 カチカチカチカチ。スズメバチの頭部から発せられる音に共鳴するようにハードディスクが震え、読み出し音が悲鳴を上げる。同時に点滅する触覚が通信中を示しているのはすでに知られた事実だ。
「ご協力ありがとうございます! 御社の出版データはすべて当ライブラリにアーカイブされました!」
 情報の独占権は失われた。編集長は絶望にうなだれる。
 あの月まで届く塔だけが、世界中からスズメバチの奪った情報で肥え太っていく。

【続く】