今、世界中の人間が同時に窒息したら、その原因は何だと思うか?

不穏なタイトルになってしまったけれど、そうなった時に人間は何が原因だと思うだろう?

自分も、周りの人間も、突然苦しみ出す。

ウィルス?

テロ?

異常気象?

…呪い?

思いつくのは大体これくらいかな?


私は人の笑顔を見るのが好きだ。出来ることなら世界中の人を笑顔にしたい。そう思いながら生きている。

セラピストという仕事を選んだ理由もそうだ。しかめっ面でいらしたお客様(身体に辛い部分がある人はお店に来る時はしかめっ面になっている事が多い)が、施術後に笑顔で帰って行くと、頑張って良かったと思うし、その笑顔が最高の報酬だと思う。

人を笑顔に出来る仕事というのは本当にやりがいがある。

だから、今までどんな職場にいても他のスタッフのことも笑顔に出来るよう努めてきた。どんな雑用も残業も、他のスタッフの笑顔が見れるならと喜んで引き受けた。

いわゆる、『いい人』ってやつだ。

いい人でいる事に関しては、自ら引き受けた訳だし、喜んで貰えるなら苦ではなかった。

ただ、たったひとつ見落としていたのは、いい人を続けていれば周りはそれが当たり前になり、この人は頼めば断らないとどんどん舐められていくという事だった。

人に頼み事をする時の申し訳なさそうな顔とOKを貰った時の笑顔の切り替わり。初めは心を感じられた笑顔も、当たり前のように繰り返されるうちに、その場凌ぎの取ってつけたものにすり替わってゆく。

だって、断られないってわかっているからね。

子供がいるわけでもなく、終電が早いわけでもない私に、家や子供や終電というワードを出せば絶対に断ったりしないということは、ある程度長い期間一緒に働いていれば大体みんな分かってくる。

ある時、休憩後に更衣室にタイマーを忘れてしまった私が更衣室のドアの前まで戻ると

「あー!今日◯◯の録画予約忘れた!」

「LENAさんに子供が…って言えば絶対閉店作業代わってくれるよ」

という会話が聞こえてきた。

これは…

聞いてはいけなかったな…

と、そっと更衣室を離れた。なるほど。当たり前になるというのは非常に痛い。

もちろん、何も聞かなかった事にして私はその日の閉店作業を滞りなく済ませた。

怒りよりも残念な気持ちが強かった。

私は何も知らないフリを続け、その後も様々なことを引き受け続けた。

私は空気になった。

周りにとって、なんでもやってくれて当たり前の存在になった。

そうして、パタリと仕事を辞めた。

「一ヶ月後に退職します。」

と告げると、いつも現場に居ない人事部長は

「わかりました。新しい人見つけなきゃなぁ〜…」

と軽く承諾してくれたが、現場には焦りの色があった。

「新しい人、LENAさんみたいに積極的にお仕事頑張ってくれる人だったらいいんだけど…」と店長とスタッフに不安の声が上がった。

それを見て、ざまぁ見ろという性悪な事を思ってしまった。罪悪感など無かった。

これは私のささやかな復讐だった。性格が悪いと思われても大いに結構だ。私だってそう思う。我ながら、なんて陰険なんだと思う。だが、この時は思わず「勝った」と思ったのだった。

その後、職場のスタッフから、私の退職後に売上が25%落ちただの、戻って来れないかだの言われたが、「家庭の事情で」という大抵の事が許される理由で断った。家庭の事情なんて皆無なのだけど。


ここでタイトルに戻る。

今、世界中の人間が同時に窒息したら、その原因は何だと思うか?

まさか誰も「空気が怒っていなくなった」とは思わないだろう。

空気は常に私達の呼吸を助けてくれる。

そんな空気を人間は汚し続けている。

私達が当たり前のようにしている呼吸は、空気があるから出来ているのに。

もしも、空気が怒っていなくなったら?

いやいや、いなくなるわけがないだろう!

なんて、誰が言い切れるのか。


空気を舐めちゃあいけない。

時には空気も反乱を起こすかもしれないのだから。

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