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亀川千代さんの想い出

Xを開いたら、ゆらゆら帝国のベーシスト・亀川千代さんの訃報が飛び込んできた。
え…まだお若いのに…。

私の中にある、誰にも話してない小さな想い出を記しておこうと思う。

学生の頃、地元に小さな中古CDショップがあった。新品のCDを買うお金のなかった私は、ちょっと時間があるとフラリと立ち寄り、CDを物色していた。雑居ビルの地下にある5坪くらいの店。狭くて急な階段を下る時、今日こそ足を滑らせて落下するんじゃないかとヒヤヒヤしながらギリギリ持ち耐えて店に入る。

店にはいつもほとんどお客さんは居なかった。居ても私ともう一人くらい。店主はカウンター越しに小さな声で「いらっしゃいませ」と言う。私も小さく会釈する。

私は好きなアーティストのCDを探したり、たまに全然知らない人のCDをジャケ買いしたりしていた。

そこで出逢ったのが「ゆらゆら帝国」だった。

ショップの棚には五十音順にCDが並んでいる。有名アーティストの所には、先頭にネーム板(アルバムくらいの太さの目印)があって、そこに名前が書いてあるので探しやすい。逆にそこまで売れていないアーティストにはネーム板がないので、ネーム板があるアーティストから推測してこの辺かな?という感じで探していく。

ゆらゆら帝国にはネーム板が付いていた。だからCDを物色するたびに「ゆらゆら帝国」の名前が目に入ってきていた。「や行」には私の好きな「ゆず」がある。もちろんネーム板が付いている。その近くにある「ゆらゆら帝国」って、、、何ぞ?

私はゆらゆら帝国を全然知らなかった。Mステとかの歌番組では見たことが無かったから。
なので「このバンド、あまり露出してないけどなんでネーム板があるのかな。もしかして私が知らないだけで有名なのかなぁ?それとも店長の推し?」
なんて思いながら、その日は1枚買ってみることにした。
確か「太陽の白い粉」かな。それだけ紙ジャケだったからなんか良いな、って思ってそれにした。

家に帰って早速聴いてみた。なるほど、ゆらゆら帝国はロックバンドだったのか。
坂本さんの気だるい感じのボーカルがなんとも言えない感じで癖になる。す、、好きかもしれない、、、。
大人になる一歩手前の移ろいやすい今の自分。埋まらない理想と現実のギャップ。未完成な思考力で、儚い感情のうずにすぐに飲まれてしまう自分が嫌だ。そんなモラトリアムな私の心の水脈に、ゆらゆら帝国の音楽は何故かどんどん染み込んでいった…。

それからというもの、そのCDを繰り返し聴いた。部屋の窓からボーッと空を眺める。小さな白い雲が見える。ゆっくり流れる時間とゆら帝のロックの組み合わせが心地良かった。

そこから何枚かゆらゆら帝国のCDを聴いた後、学校で時々入れ違いになる夜学の友だちに会った。その日はたまたま好きな音楽について聞かれた。

「音楽って何聴いてる?」
「最近は、ゆら帝聴いてる(知らないよね)」
「え?ゆらゆら帝国?」
「うん、そう(知ってるの?)」
「私も好きで聴いてる!今度一緒にLIVE行ってみようよ!」

なんという事でしょう。
私たちはすごく盛り上がって早速チケットを手に入れた。確か新宿二丁目あたりのライブハウスだったと思う。その日の新宿は雨上がりで、生温い夜風が吹いていた。ドキドキしながらライブハウスの前に並んだのを思い出す。

LIVEは爆音で私はちょっと耳鳴りを覚えた。笑
でも、ゆらゆら帝国はめっちゃカッコ良かった。
LIVE中、お酒に酔った二人組のお姉さんが、ノリノリで私にめっちゃ身体をぶつけて来るのがちょっと嫌だった。
でも、ゆらゆら帝国がめっちゃカッコ良かったので許した。笑

その後は就活とか卒業に向けて色々な事に勤しんでいたので、LIVEに行ったのはあの日だけだった。

卒業後しばらくして、昼間自宅近くを歩いていると、亀川千代さんにそっくりな人がチャリに乗ってるのを見かけた。
黒髪を長くのばしていて、上下黒い服を着ていた。

「あれ?ゆら帝のベースの人?」
って思ったけど、すぐ
「私の家の近所をゆら帝がチャリに乗ってる?そんな訳ない」と打ち消した。

だけど違う日にもまた会った。
やっぱりどう見ても亀川千代さんだ。
声を掛けてみたかったが、私が千代さんなら自宅の近くで声を掛けられたら「気持ち悪っ!」って思うのでやめた。笑

その後も何度かお見かけした。
いつも全身黒でスーッとチャリに乗っていた。
昼間に見かける千代さんは、長い髪を風になびかせて、体力をほぼ使わないくらいのスピードでペダルをこいでいた。

私の近所に亀川千代さんが住んでいる。私はふとした瞬間にそのことを思い起こしては、フガフガしていた。笑

中古CDショップでたまたま買ったCDが気に入り。
偶然友だちも好きなバンドで。
LIVEに行き、生で見て。
そのバンドのベーシストがまさかのご近所さん。

そんな事ある??

もしかしたら、全然別人かもしれない。私の妄想力が見知らぬ男性を亀川千代さんにしてしまった可能性も、5%くらいはある。

だけど私の青春時代の小さな想い出の中には、確かにゆらゆら帝国・亀川千代さんがいた。

素敵な時間と音楽を聴かせていただき、ありがとうございました。

おしまい。

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