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レンズ談義 その3 ヘリオスの突っかけ

 Cooke Speed Panchro 50mm f2(シリーズⅡ 1940年 5群7枚、4群6枚のオピック型の後群にレンズを1枚加えた伝説の超名玉。現代でも、高級レンズや映画用レンズに採用されている不滅のレンズ構成)の写りを体感したい。その願いは、なかなか叶いそうにない。
 端麗さと豊潤さを同一平面に描き出す、まるで極上の赤ワインに酔い痴れたかのように、時に、鮮烈さと激情を隠しもしない、露わにする。その本性は見極め難い。
 淡い色調が、いつしか濃密な質感を纏う。成熟と手を携え、ともに歩む清楚、不可思議なレンズ、神秘の佇まい、光の如く疾駆する。

 しかし、その原基となるオピック型のレンズは、安価で手に入る。
 PO3-3M 50mm f2(最初に地球を大気圏外から撮影したレンズとして有名。4群6枚の非対称型のダブルガウスは、現代の大口径標準レンズの規準となっているレンズ構成。1920年、テイラー・ホブソンのH.W.リーが設計、4群6枚の対称型のダブルガウスであるプラナーを改良したもの)、その兄弟レンズ(同じレンズ構成で、35mmシネマフォーマット用。ほぼAPS-Cと同じ)である準広角の PO4 35mm f2、その正統な後継レンズである Helios-33 35mm f2、値段は段階を追って下がり、ヘリオス33ならば、わたしの手が届いてしまう。
 APS-Cのミラーレス機に取り付けるべく、悪戦苦闘というか、試行錯誤し、ようやくマウント完成。
 残念、無限遠がどうしても出ない。
 このレンズ、マウントにも何種類かあるようで、わたしの購入したレンズのマウントでは、わたしの使用するカメラのフランジバックに余裕がなくて、どうしても、距離が縮められない、無限遠が出せない。
 色々やってみて、それでも、0.5mから4mくらいまでは撮影できるようになった。
 危うく、安物買いの銭失いっぽくなりかけた。反省しきり。
 別マウントのレンズなら、多分、こんなに苦労はしなかった。値段だけ見て飛び付いた、その注意力不足?が招いた小惨事である。
 プラナーとスピード・パンクロとの中間に位置するレンズの冴えは、如何に。

 次なるターゲット(おそらく最終着地点、終着駅)は、かのP.ルドルフが1922年に考案した4群6枚のKino Plasmat、これに尽きるだろう。
 稀代の癖玉、悪党レンズ、喩えれば、歌舞伎(「かぶく」という精神の露出、叛逆の発露)か、ルドルフが仕組んだ光学史上最大の謎、レンズの迷宮、魔宮に棲まうレンズ、その闇を切り裂くように激しい電光が走る。
 ヘルメスの沓ならば、一飛びにこの迷宮は越えられるだろうが……

 以上、わたしの体内に埋め込まれたレンズが映し出した夢の画像でした。


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