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レンズ談義 その6 カッサロンの蠱惑

 Auto-Cassaron(オート・カッサロン)50mm F2.8
  最短撮影距離 0.8m
  最小絞り値 f22
  絞り羽根枚数 5枚
  フィルタ―径 40.5mm
 
 銀色に艶めくゼブラ、黒地に赤(オレンジに近い)のfeet表示、佇まいが美しい。
 まるで貴婦人のように優美で、しかも、精悍さを失わないでいる。
 不思議なレンズだ。
 
 シュタインハイル(Steinheil Munchen)、いかにも硬質で高貴な響きだ。
 アルプスの北約50kmに位置する海抜520mの平野、大都市ミュンヘンで、このレンズは生まれた。
 
 ミュンヘンの地において、ドイツの古典派の趣とスイスの高度な職人技を合体させ、繊細さと独自の色彩感が醸し出す秘められた妖艶さを画像に写し出す一つのレンズに結実させた。
 癖玉だが、レンズの一つの最高峰(高度な達成点)にあるのは分かる。
 
 スイスの光学会社と言えば、ケルン社であるが、あのシネ用のスイターとはまた違った見る楽しさ、操作する喜びがある。とろけるようなボケとは無縁だが。
 
 不思議なレンズだ。
 その外観からは想像できない描写がそこにはある。
 癖玉というよりも、荒れ玉、暴れ玉、呆れ玉(あざとさとあっさり感が矛盾なくその存在を主張している)の一種か。
 絞り開放で逆光気味なとき、突然、そこは白昼夢の世界に一変する。
 すべてが薄いベールに包まれて、端然とほほえんでいる。
 近づこうにも、その薄靄を誰一人突き抜けることができないことを、それはあっさりと告白し、詫びることもない。
 茫然として立ち尽くしていると、やがて、薄絹をまとった妖しのものが婉然と立ち現われ、手招きしている。
 さあ、光の魔宮へようこそ。美しい装飾で輝く魔鏡をその手に携え、この闇から囚われの光をそっと吸い取ってあげましょう、と。
 
 カッサロン、一つ間違えれば、作家論、全自動作家論というのも、酔狂で、イケてる。
 
 

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