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空間除菌について

これまでたびたび物議を醸している『空間除菌』

なんとなくネットニュースを見ていたら『クレベリン』で有名な大幸薬品が『希望退職を募集』というようなのを見ました。

大幸薬品といえば『正露丸』の印象ですが、最近はクレベリンに関連して消費者庁から『景品表示法違反(優良誤認)』と指摘されるなど、ちょっと良くないイメージがついてしまっているかもしれません。

そのあたりの騒動の詳しいところはあまり興味がないですが、クレベリン(空間除菌)の根拠については興味がありました。

今回の記事では関連する論文を見ながら、効果等について所感をまとめたいと思います。

結論から書くと、『空間除菌』についてちょっと疑わしい点が見られます。


◆空間除菌についての憶測

ちなみに、個人的には空間除菌というのがいまいち信じられません。

理由は簡単で『空間を漂う程度の微粒子同士がそんな簡単にぶつかってたまるかよ。』という直感によります。紫外線照射とかならまだわかるんですけどね。

分子レベルで考えると目茶苦茶衝突しまくっていると言われているようですが、それにしても例えば『0.03ppmという低い濃度でウイルスを99%不活化』とかできるもんかね。と思うところ。

まあ、学の無い私の憶測ですから、なにかしらの理由があるのでしょう。
気になるところ。


◆クレベリンについて

公式サイトからイメージと概略を引用します。
(知ってる人はとばしてください。)

クレベリン 置き型は、ボトル内の液体に顆粒剤を混ぜ合わせたのち発生する二酸化塩素ガスを固化して封じ込め、ゲル化した表面より、使用期間にわたり徐放的に二酸化塩素ガスが揮散する製品です。
無人室内空間で使用した場合、(一社)日本二酸化塩素工業会が策定した「二酸化塩素ガスの室内濃度指針値」(一生涯にわたって吸い続けても健康への有害な影響がない濃度)付近となるように設計しています。

クレベリン 置き型|クレベリン|大幸薬品株式会社 [2022.06.01 引用]
https://www.seirogan.co.jp/cleverin/cleverin/products/cleverin_gel.html

メカニズムについてはこんなイメージが示されています。

ウイルス除去・除菌の仕組み|大幸薬品株式会社 [2022.06.01 引用]
https://www.seirogan.co.jp/cleverin/cleverin/mechanism.html

簡略化されており、知りたいことはわかりません。


◆論文抜粋

クレベリンを用いた空間除菌に関わる論文(PDF)は以下です。
興味のある方は全文どうぞ。

低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御
―ウイルス失活効果の湿度依存性―

(2017 年 3 月 10 日受付・2017 年 6 月 22 日受理)
http://www.kankyokansen.org/journal/full/03205/032050243.pdf

[2022.06.01 引用]

重要箇所を抜粋して見ていきます。

◇◇◇

まずは『要旨』。
これを見れば効果がいまいちなのがわかります。
(下記の『市販のゲルタイプ製剤』が『クレべリン G ゲル 60g』です。)

要 旨
低濃度二酸化塩素(ClO2)のウイルス不活化能を種々の湿度条件で検証した.ClO2は高湿度で 不安定で,市販のゲルタイプ製剤では閉鎖空間で一定低濃度維持できない.そこで高湿度で低濃度 ClO2環境を一定時間維持できる乾式法製剤を用いて実験した.一定室温下で低,中,高の三つの 湿度条件下,生活空間でヒトが耐えうる濃度限界とされる 20-30 ppb の ClO2の,空中浮遊インフ ルエンザウイルス不活化能を調べた.各湿度,ガス濃度の閉鎖空間でウイルスを空中に放出し,一 定時間ガス曝露後,一定量の空気を回収し含まれる活性ウイルス量を調べた.その結果,相対湿度 30% 環境では,曝露 20 分後の回収ウイルス量は,対照のガス非存在下と統計学的な有意差はなかっ た.湿度 50,70% では,対照でも回収ウイルス量が放出量の約 10% と 2% 程度まで低下した一方, ガス存在下ではそれぞれ 0.3% と 0.03% まで低下し,低下は統計学的に有意であった.以上,湿度 50-70% 環境下であれば,20-30 ppb 程度の低濃度 ClO2にも抗ウイルス効果はあった.だがそれは, 感染管理の視点からは,患者から空間に放出され一定時間経過後残存する活性ウイルスの絶対数か ら見れば,湿度自体による大幅な感染リスクの減弱にやや上乗せされる程度の効果でしかない.一 方湿度 30% では,この程度の濃度では感染リスクの低下はほとんど望めないことが,明らかになっ た.

低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御[2022.06.01 引用]
http://www.kankyokansen.org/journal/full/03205/032050243.pdf

全文を見ていただければ詳細はわかるのですが、結局『低い湿度では効果があまりなく、高い湿度ではやるメリットが低い。』という感じですね。

なかなか扱いが難しい商品です。

◇◇◇

さて、個人的に気になっている『空間を漂う程度の微粒子同士がそんな簡単にぶつかってたまるかよ。』ですが、全文を読んでも空間除菌がされているという根拠はわかりませんでした。残念。

で、ちょっと気になったのが試験方法について。
以下のように空間にウイルスを噴霧し、回収しています。

1-10 μm の径のミストを発生させることので きるネブライザー(オムロン社製 NE-C16)を用い,ウ イルス液を実験空間内に 4 分 30 秒間,液体容量にして 3-4 mL 相当噴霧し,浮遊終了後 30 秒経過時を基点とし て 0 分,10 分,20 分経過後にブース内の空気を吸引ポ ンプで 120 L 採取し,その中からウイルスを含むミスト をゼラチン膜フィルター(ザルトリウス社)で濾過採取 した.その後フィルターを 37 ℃の培養液で溶解し,回 収された活性ウイルスの量を MDCK 細胞を用いたプ ラーク法で測定した.

ウイルスおよび空中浮遊ウイルスの発生,回収と定量
低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御[2022.06.01 引用]http://www.kankyokansen.org/journal/full/03205/032050243.pdf

『ゼラチン膜フィルターで濾過採取』とありますが、これは適切なんでしょうか。この段階でウイルスと二酸化塩素が接触(不活化)しやすい状況が作られてしまっている気がします。

厳密に『空間中で二酸化塩素により不活化されている』ということを証明するのは非常に難しそうで、個人的にいまいち説得力に欠ける内容でした。


◆おわりに

実を言うと『省庁などからネガティブな指摘をされるとしたら、もしや効果があるのではないか』というアホなバイアスに基づき探ってみたのですが、実際のところいまいちでした。

まあクレベリンの効果に関してはその他でも論拠がありそうなので、もし安全で効くものなら悪い印象が付いてしまうのはもったいないですね。

ちなみに、私の憶測である『ゼラチン膜フィルターで濾過採取時に不活化しているのでは?』を人間で例えるなら『鼻腔内でウイルスを不活化出来ているのでは?』に類似します。

そのような理由で感染症対策として有効な可能性はありそうですけどね。

◇◇◇

それはそれとして、私が気になっている、
『空間を漂う程度の微粒子同士がそんな簡単にぶつかってたまるかよ。』
について有力な情報をお持ちの方、教えていただけると助かりまーす。

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