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母親
四季折々のイヤイヤ期を超え、
私は彼の母親になった。
私は女性だ。
いや彼にとっては女性だった、という言い方のが適切かもしれない。
家事や洗濯は基本私がする。
ドラマで見るような、
あれやれ。これやれ。の星一徹系ダメ男子ではないけれど、
女性はこうでなければならない。という潜在的バイアスに押しつぶされ、
私が全てやっている。
おそらく、令和の次の年号になっても、永劫この事案は変わる事は無いだろう。
彼は好き嫌いが少ない。
だから出されたものはなんでも食べるけれど、だからこそ料理を作る気概が生まれないというものだ。
何も言わずに垂れ流しのバラエティ番組を見ながらパクパクと口に運ぶ様は、コイのようだ。
"与えられたものを飲み込む恋みたいだね"
というダブルミーニングを彼に伝えても、皮肉にもならないだろう。
やっぱり彼は子どもだ。
何度言っても、整髪料を使った手で蛇口を捻るし、背中を濡らしたまま風呂場からリビングへ向かってくる。
仏の顔も三度まで というが、
三千回ほど許している私は、
オリュンポス十二神 新メンバーにスカウトされてもいい。
そんな彼を今日も朝見送る。
今年の冬は冷える、と彼にマフラーを持たせた。「気がきくね」と言いながら、
急いで出た彼がだんだん小さくなっていく。
彼の左手にはいつもの私お手製お弁当では無く、マフラーがその座を奪っていた。
大きなため息をこぼしながら
可愛く結んだ花柄の風呂敷を手に取り、
リビングへ戻る。
朝ごはんが済んで無い事に気付いた私は、まだほんのり暖かいご飯を口に運ぶ。
なんともいえない、
本当の意味で独りという味がした、というと謎めいているけど、その時の味はこうとしかか表現できなかった。
その夜は彼は帰ってこなかった。
が、冬だから、と思えば許せた。
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