🍋🍯本編　第一部第八章　ありがとう、いつも（1）

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「ミエルは、ボクと結婚したい？」
「え？」
「ボクは、キミと結婚したい。それと、ウェディングドレスを着るミエルを見たい」
「待って」

 

「結婚は、その、僕も君としたい。でも、ウェディングドレスは、女性が着るものだよ」
「男性が着たらダメ？　ルールがある？」
「だ、ダメではないけど……ルール……結婚式の決まりはある。メルバンカでも、結婚式の仕事でも色々教わったでしょ？」
「うーん、確かに」

 

「じゃあ、この家で着る。ここは、ミエルとボクの自由」
「レモーノ」
「見たい。絶対似合う。どんなドレスにするかも、たくさん考えている。あとは、ミエルのいいよだけ」
「勝手に一人で進めないで」

 

「ここだけで着るのでもいいの？」
「いい。ボクだけが見たいから」
「レモーノは着る？」
「着なくてもいい。ボクだけで着るのは、ミエルに聞かずに、一人で着たらいい。ミエルの答えによる」

　自分も着るのは前提だったのか。レモーノの頭の中は、一体どうなってるんだろう。 

「二人で一緒に着るなら……いいよ……」
「いいの！？　嬉しい！！　結婚式の仕事をしているとき、いつも、ミエルも着たらいいと思っていた！」
「でも、結婚式みたいに他の人には見せないからね！？」
「大丈夫。ミエルは他の人が見るの嫌いなの、ボクは覚えている。でも、料理と飾り付けを特別にするのはいい？　ボクもミエルと一緒にいられることを、お祝いしたい」

「僕は他の人を呼ばないでほしい。特別な料理と飾り付けは嬉しい。レモーノは？　他の人を呼ばなくていいの？」
「ミエルがウェディングドレスを着て、笑顔になってくれるだけでいい。ずっと一緒にいようって言って、キスしてくれたらもっと嬉しい。他の人を呼ばなくていい。料理と飾り付けは、ボクが全部できる」
「せっかくだから、二人で準備しようよ。ドレスを決めるのも」
「それがいい」

　ドレスが着たいかと言われると微妙だが、レモーノの願いは叶えたい。それに僕もレモーノと一緒にいられるお祝いなら、したいと思う。
　机の上のカレンダーを手に取ると、この先一年ほどの予定を思い浮かべる。論文の提出期限までには、幾分余裕がある。レモーノの稼ぎがあるので、焦って進路を決める必要もなくなった。依存する気はないが、下手な選択をするリスクは、彼なしの生活より遥かに低くなった。
　それに、何よりもまず、二人で住むには大きすぎるこの家を手放したい。家事は一緒にしているが、家を小さくして減るであろう家事にかかる時間を二人の時間に回したい。

「ドレスを作るのって、大体どれくらいかかるのかな」
「確かに……パーツによる。綺麗も大事だけど、ボクは着やすい方が嬉しい」
「二人だけで着るからね」
「それもある。ボクが見たいときにも着るから」

「な、何回も着るの？」
「毎日でもいい」
「いやいや、そういう服じゃ…」
「一回では少ないよ……土曜日だけならいい？」

　ウェディングドレスを毎週末着るのか？
　僕の方が貴族の生まれだというのに、いつの時代の人間だと思ってしまった。

「何回着るかは、作ってから、考えようか」
「わかった」

　レモーノの休みの日、僕らは彼の仕事先の一つである式場を訪れ、ウェディングドレスを入手する方法を聞きに行くことにした。
　受付に訪れている他の客を見ながら、結婚式の準備の様子を観察する。相手は幼少期に決まっていて、当日の立ち居振る舞いを覚えること以外にすることがなかった僕には、当事者二人で話し合っている光景が新鮮だった。
　祖父が決めた僕の婚約は、相手方の承諾がなく、破棄になったように思うが、正式に手続きされたか、定かではない。相手が母の葬式に参列していたのを見るに、もしかしたら有耶無耶になったままかもしれないと、疑念が過る。音信不通だったから、完全に失念していた。

「何を考えている？」
「あ、ごめん。貴族には、特別な結婚のルールがあるんだ。僕らが結婚しても大丈夫だったか、確認しないといけないことがあるなと考えていた」
「確かに。メルバンカにもたくさんのルールがある。ボクは、色んな国に行くメルバンカの人と決まっていて、ルールは少ないけど、ある。スフィリットに住むとも、誰かと結婚するとも考えていなかったから、よく知らない」
「そうなんだ。そっちも知らないといけないね。違う国の人たちで、結婚した人がいるか、聞いてみよう」
「それがいい。多分、メルバンカの人が働くドレスのお店がある。メルバンカでは、生まれた家によって着る服が違う」

「じゃあ、レモーノがつけているストールも、メルバンカで住んでいた家のルールでつけているの？」
「いいえ。これは、生まれた国のお守り。羊の毛をもらって、服をつくる。この模様は、木の実を集めるかごという意味。食べ物がたくさん集められるお守り。本当はどんぐりの色の糸にするけど、メルバンカで『藍染め』を教わった。その草で糸を染めると、血を吸う虫が来ない」
「二つの国のお守りなんだ」
「スミレとタンポポのブローチもつけているから、三つの国」