呉服屋さん

年に一度、お正月の準備のために大きな市場へ食料品を買いに行く。2022年の大晦日に行った時に感じたこと。

高齢男性の生き方についてときおり考えてるのだけど、今回、結局こういうのが理想的なのかも、思う人にあった。

一昔前まではどこにでも一軒はあった呉服屋さん。店先で足袋や半襟、紐などの小物がワゴンに載せてある。ハンガーラックには半纏(?)や季節によっては浴衣などがかけてあり、店に入らずとも品物を手に取って見ることができる。

2023年のお正月に子どもと一緒に着物を着よう、と急に思いたったのだが、2人分の帯枕がない。小柄な子どもに合わせて小さな帯枕が欲しくなり、Amazonや楽天を見てみたけど、なんとなく気乗りがしない。

大晦日に市場へ行く時に、あのあたりに確か呉服屋さんがあったな…と思いだして行ってみた。暗い照明にこぢんまりとした古い店構え。案の定、ワゴンに小物がたくさん積んであり、目的である小さな帯枕とともに、かわいらしい刺繍入りの足袋ソックスが目に入った。買おうかな、と決める。

80歳は過ぎてるかな、という感じの高齢男性が2人が開店準備のために、店内からワゴンやハンガーラックを出しておられた。品物を見ている私に気が付いて話しかけてくれる。手にとってみてみると、ネットで買うより3、4割ほどは高い。それでも実物を手に取り、いくつかの候補から選ぶ楽しみがある。ちょっとした会話とお金と品物のやり取り。計算とおつりは確実にお2人で確認し合う、ゆっくりとした流れ。

傍に目をやると、鮮魚店はふぐを買い求める人で大行列。行き交う人は足早に目的地を目指す。いらっしゃーい!おいしいよー!安くするよーという呼び声やカランカランと鐘の音も聞こえる。大盛況だ。

この呉服屋さんの売り上げは大きくはないだろう。お客さんもぽつぽつあればいいかな、という感じだろうか。初詣や夏祭りの前に少しの賑わいを見せるのかもしれないが、たいした収入ではないだろう。

高齢男性2人で、奥でテレビを見ながら店番。お客さんが来たら、お店に出て応対。仕入れも毎日ではなく、経理計算も複雑ではないだろう。お客さんは私みたいな人もいるかもしれないが、多くは近くに住む元気な高齢者が小物を買いに来たり、半纏を買いに来たりするくらいだろうか。

それでも年金があれば生活はできるし、店に立つ限り、体も使うしお客さんと話もするし計算もする。時間通りに店を開け閉めするため、規則正しい生活になるだろう。昼間からお酒を飲んで店番することもないのではないかな。

お二人の関係性は分からなかったが、兄弟なのかお友だちなのか、その間で交わされる会話もあるだろう。

まるで世間の喧騒からは離れた別世界。ゆっくりとした時間。

帰宅して品物を改めて見る。帯枕の包装には黄ばんだ手書きの値札がついていた。そのビニールは透明感が薄れており、何年も店先に置かれていたことを物語っている。

そして、あの2人のおじいさんのことを思い出して、こういうのが理想なのかもしれないな、と思ったのだ。

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