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四角い箱にて考える。 二話 空想空間

    前回、突如一人四角い部屋に閉じ込められてしまった彼。鍵を手に入れた彼は、期待を胸にその鍵を差し込んだのであった…。

──気が付くと目を閉じていた私は、ある種のデジャブを覚えながらも瞼を起こすと、綺麗、と思わず感嘆を漏らした。眼前には様々な見た事の無い草木や花が広がっている。このメルヘンな様相は、予想ではあるが、「鏡の国のアリス」がモチーフなのだろうか。先程とはまるで違う雰囲気に風邪を引きそうになるが、堪える。そう言えばと見渡すが、うさぎは見当たらなかった。にしても部屋の構造は相も変わらず四角い。格子窓はメルヘンさを基調とした念いが見受けられる。草の蔓がぐるると巻かれ、窓枠の端には懐中時計が時を刻んでいる。だが信用ならない。時計もまた、ぐるると訳の分からぬ時を巻いているからだ。外からは月明かりでは無く、恐らく陽の光が射し込んでいた。恐らく、というのは体感ではあるが、余りに久々に感じ取った日光であったから、疑いの意と信じられないという気持ちが混じったからである。しかしこの部屋、何か特別な機構が働いているのだろうか。これ程の植物の成長を維持するには、水源の正体が翳り過ぎている。何か超常的な"もの"が私の知らない所で蠢いている、そんな出鱈目のような思考に頷きたくなる。ふと手元を見ると、生の人参鍵は無くなっていた。どうやら一度使うと無くなるという仕様らしい。まぁ言ってしまえばあんなもの、あってももう使える場所など無いだろうが。それともう一つ、空間の異質さに気を取られ過ぎてすっかり反応が遅れてしまったが、この部屋には扉が付いている。鍵穴は無い、だがしっかりとノブは付いていた。さっきとは打って変わって易しいなと思いながらも、次こそは元いた場所へと続いていますようにと祈りながら扉のノブを捻った。

    扉は思ったよりも軽く、やや強めに前へつんのめる。下がった視線が悲しげな鼠色を捉える。嫌な予感がしたのも束の間、上体を起こした私の目の前には少し前に見ていたはずの、最初と全く同じ様子の部屋が此方を見据えていた。一気に不安が押し寄せ、急いで戻ろうと後ろを振り向く。が、そこには扉など最初から無かったかのように混凝土の壁があり、それは私を絶望させるには容易い条件だった。彼はまたしても、薄気味の悪い不気味で何も無い部屋に閉じ込められてしまったのだった…。

続く

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