地方活性の観点から見る「夢のアリーナ」
1.私のプロフィール
バスケは好きですが、何も裏側の情報は知りません。
ただ新B1に向けて色々調べていく中で、
「新しいアリーナを作らないと新B1に行けない」
「新しい大きなアリーナを作ってチケットを取りやすくしてほしい」
という観点だけでなく、新アリーナは国が期待する役割もあることを知りました。
素人が調べた範囲で地方活性の観点から見た「夢のアリーナ」についてまとめてみます。
小難しい話ですが、「夢のアリーナ」は建てて終わりではないことが伝われば幸いです。
2.新B1の審査内容とスケジュール
新B1のB.LEAGUE PREMIERに選ばれるには3つの条件があります。
①入場者数:平均4000名以上
②売上 :売上高12億円以上(バスケ関連事業:9.6億円以上)
③アリーナ:B.LEAGUE PREMIER基準のアリーナ
(5000人以上収容、VIP席確保等)&必要日数の確保
2024年10月17日に1次~3次審査対象クラブのB.LEAGUE PREMIERの審査結果が発表されます(審査のための書類提出期限が2024年9月末)。
なお、4次審査クラブの合否は年末に発表となっています。
3.国が期待する「夢のアリーナ」の役割
B.PREMIER基準に適合したアリーナが「夢のアリーナ」と呼ばれます。
バスケファンからは、批判的な意見を耳にします。
「既存のものがあるのに、なぜ新基準のアリーナが必要なのか。改修にしても、新しく作るにしても莫大なコストがかかる」
「大企業がスポンサーにつかないと5000人入るアリーナは建てられない」
「人口が少ない地方では無理な話だ」
バスケだけの視点でみると、島田チェアマンが新しい基準をいきなり押し付けているようにみえます。
話は変わります。
皆様は、「スタジアム・アリーナ改革」という言葉を知っていますか。
私は試合を観るだけではこの言葉に出会うことはありませんでした。
ただ調べてけばいくほど、国が推進する「スタジアム・アリーナ改革」と「夢のアリーナ」は切っても切れない関係にあると考えました。
真面目な話になりますが「スタジアム・アリーナ改革」が何なのか紹介します。
国はまちづくりや地域活性化の核となり、「プロフィットセンター」となる「アリーナ」を求めています。
「プロフィットセンター」の対義語は「コストセンター」です。
公的資金の負担の対象である「コストセンター」となっているスポーツ施設を、収益を生み出す対象である「プロフィットセンター」に変えていこうというのです。
国は2025年に向けて地域未来投資促進法によりアリーナ建設をサポートしています。これは「夢のアリーナ」建設への一助となっているはずです。
4.「夢のアリーナ」の改革モデル採択状況
「夢のアリーナ」は「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」20拠点の改革モデルに含まれているのか確認してみましょう。
「夢のアリーナ」はほぼ採択されています。
ここで少し挑戦的に等号を使ってみます。
「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ選定先一覧」
=「プロフィットセンター」
=「夢のアリーナ」
「夢のアリーナ」は、公的資金の対象とならない
・赤字でも税金をつぎ込まない
・改修が必要でも税金をつぎ込まない
自走して利益を生み出し、改修費用も捻出し、長期的に地域に活性をもたらす存在であることを期待されていると考えるのは深読みでしょうか。
「新B1に必要だから」というのはBリーグの中だけの話で、国が目指すゴールをBリーグが一つの形として実現しようとしているとみれないでしょうか。
2017年6月9日国が「未来投資戦略2017」を示し、2019年7月11日にBリーグの大河チェアマン(当時)が新構想を打ち出しました。
2021年7月B.革新に向けたインタビューで島田チェアマンは以下のように語っています。
「夢のアリーナ」は「音楽×スポーツ」の業界タッグという形でも注目されつつあります。
既に「夢のアリーナ」構想が出来ているクラブは新B1と改革モデルへの応募を済ませ、アリーナ要件以外の部分の審査も経て、2024年10月17日に新B1への加入にふさわしいかリーグより発表されます。
改革モデルの令和6年度の公募は
・参加表明書受付期間:2024年9月9日~2024年10月4日
・申請書類受付期間 :2024年10月7日~2024年10月25日となっています。
「改革モデル」「新B1」どちらもアリーナが完成している必要はありません。建設されることの「確かさ」を証明できれば、パスできます。
改革モデルの令和6年度公募に間に合えば、年末の新B1・4次審査にも間に合うと推測します。そして改革モデルに採択されれば、情報提供を含め国から重点的な支援が得られます。
5.「夢のアリーナ」にかかる費用
「夢のアリーナ」を作るには多くの費用がかかります。
・建設費用(これから作る場合、資材等はさらに値上がりしています)
・土地取得代
・固定資産税
・多額の維持コスト(会場運営のための人件費、水道光熱費等)
民設民営で建設したサッカーのスタジアムの例では「減価償却費、水道光熱費、芝生の維持費」が大きな割合を占めています。芝生の維持費はサッカー特有ですが前の2つはアリーナも同様でしょう。
私は会計の専門家ではありませんので、他の記事を参考にし減価償却費について記載します。
「夢のアリーナ」は会計上「有形固定資産」の「建物」に分類され、多くの費用がかけられて完成します。
(例:資材費用、建設のための人件費)
「夢のアリーナ」は、時間の経過や使用により資産としての価値が減少する(経年による老朽化や、使っていく中でどこか壊れたりする)ため、決算時に当期中の価値の減少分を減価償却費として費用に計上します。
バスケを開催するためにも費用はかかります。ただ、アリーナでバスケを開催するのは365日ある中で1割にもなりません。
「プロフィットセンター」であるアリーナは、バスケ以外の335日もフル活用して費用を上回る利益を生み出すことが求められます。
6.「夢のアリーナ」がもたらす収入
5章で会計上アリーナ運営には多くの費用がかかることをどうにか示したつもりです。
費用を上回る収入を確保できなければ「プロフィットセンター」にはなれません。ここでスポーツ庁が提示している「スタジアム・アリーナに関する主な収入機会」を紹介します。
Bリーグではクラブライセンス基準が定められており、赤字を防ぐために各チームは「固定収入」の割合を増やしたいと考えるでしょう。
「シーズンシート収入」(Bリーグでいうシーズンチケット)を増やしたいのであれば、チケット単価を上げるかシーズンチケット販売数を増やすことになります。
よって、私は「夢のアリーナ」が完成した時に「チケット単価が上がる」「シーズンチケット販売数が増える」ことは止むをえないと考えます。
そのため、「夢のアリーナ」が完成してもチケットが大幅に取りやすくなることはないと予想します。
例えばCSのセミファイナルでも100人程度空席が出て、ギリギリでもふらっとアリーナに寄れるようにするとしましょう。
CSのセミファイナルはホームで開催できる最も人気な試合となるはずです。(瞬間最大風速と私は呼んでいます)
瞬間最大風速に沿って席数を設計するとレギュラーシーズンの水曜開催等では空席がさらに増えるでしょう。
本来入場したい人を大きく下回る席数(小さすぎる箱)は機会損失となります。ただ、空席が最後まで埋まらず試合が終了したら運営は本当に損をします。
ブースターとしては「夢のアリーナ」はクラブ名を冠して欲しいでしょうが、命名権は売り出す方が固定収入確保には有効です。
親会社もいつまでスポンサーとして出資してくれるかは分かりません。
特定の親会社のスポンサー収入に頼っていると、親会社が不祥事等により撤退した際チームそのものが解体するリスクがあります。そうなると「夢のアリーナ」は「ただの箱」と化し、赤字化したクラブはリーグから撤退せざるをえないかもしれません。
7.「夢のアリーナ」の稼働率と収容率
ここで「アリーナの稼働率」という考えを紹介します。
365日あるうち、どれだけアリーナが稼働しているか計算したものです。バスケのみでは稼働率は1割未満となります。
イメージ的には下の資料のようなイメージです。
(2002年のFIFAワールドカップの際に国内主要スタジアムの現状がまとめられました)
こちらのアリーナバージョンがあれば、「夢のアリーナ」が365日の中でどれだけ有効活用されているか確認できます。
各アリーナの利用状況は調べることができます。ぜひ皆様が応援するチームのアリーナの利用状況を調べてみてください。
「夢のアリーナ」に選ばれていながら、ほぼバスケでしか利用されていないアリーナはチケットの単価が大幅に上昇することもあるでしょう。
続いて「アリーナの収容率」という考え方です。
アリーナの最大収容人数に対してどれだけお客さんが入り埋まったか。
5000人入るアリーナに対し4000人しか入らなければ収容率は80%。
5000人入るアリーナに対し立見席等駆使し6000人入れれば収容率は120%です。
アリーナの最大収容人数はコロナ禍の際に発表したチームもありますが、全チーム出しているわけではありません。
収容率もアリーナの活用状況を示しますので、リーグが公表してほしいものです。
(絶対的な入場者数だけでなく、どの程度アリーナが埋まっていて有効活用できるか判断する指標になるはずです)
8.「夢のアリーナ」の建設方法
アリーナの建設方法は山口県がまとめています。
沖縄アリーナ・SAGAアリーナ・OPEN HOUSE ARENA OTAは自治体による公設となります。
現在進行中のプロジェクトは民設が目立ちます。
9.「夢のアリーナ」の現実の姿(適宜追記予定)
①沖縄アリーナ
A.チーム名:琉球ゴールデンキングス
B.建設手法:公設民営
沖縄市が所有する土地に、沖縄市がアリーナを整備した上で、指定管理者制度により沖縄アリーナ株式会社が管理運営。
C.最大収容者数:8500人(スポーツ興行)、10000人(コンサート興行)
D.建設コスト:記事により違いがあるが総工費は135億~160億
E.アリーナ活用状況
https://okinawa-arena.jp/events?page=1 より活用状況を確認可能
F.特記事項
嘉手納弾薬庫として約108億8600万円が防衛省より補助金 https://www.mod.go.jp/j/approach/chouwa/sesaku/pdf/pamphlet_202112.pdf
②OPEN HOUSE ARENA OTA
A.チーム名:群馬クレインサンダーズ
B.建設手法:公設民営
指定管理者制度により株式会社群馬シティマネジメントが指定運営
C.最大収容者数:5000人
D.建設コスト:総工費78億5000万円
E.アリーナ活用状況
https://gunma-cm.com/events/ より活用状況を確認可能
F.特記事項
企業版ふるさと納税を利用しオープンハウスが44億円を負担
10.宇都宮BREXが置かれている状況
私が応援している宇都宮BREXは入場者数・売上はクリアしていますが、新アリーナについて問題がある状態です。時系列を見ていきましょう。
2022年6月30日:佐藤宇都宮市長が宇都宮BREXの新アリーナを公共交通沿線に「民設民営」すると明言。「経済的社会的な効果を勘案して、市としても最大限支援する」(https://www.shimotsuke.co.jp/articles/-/605525)
2023年9月7日:佐藤宇都宮市長が宇都宮BREX新アリーナ候補地にLRT沿線に立地、市体育館に隣接する「宇都宮駅東公園」と表明
2024年8月1日:B.プレミア参入審査に向けた方針に関する記者会見実施
①現ブレックスアリーナ宇都宮において、B.プレミア基準を充足するために必要な部分的改修を行い、2026-27シーズンB.プレミア参入審査合格を目指す
②新アリーナ建設は、引き続き計画を止めず、極力早い時期の建設を目指し続ける
2024年9月28日:宇都宮市体育館の機能・利便性向上改修事業で、設計・工事を行う業者を公募型プロポーザル方式で選考し、中村安藤建設共同企業体に決定。決定金額は、3億0580万円(税込)
(http://www.jcpress.co.jp/wp01/?p=35781)
続いて、私見を述べます。
駅東公園には2つの観点から賛成です。
①LRTを利用して新アリーナを中心とした駅東のスマート・べニューが期待できる
スマート・べニューは今まで図の中で出てきた用語ですが、ここで改めて説明します。
先行した「沖縄アリーナ」「OPEN HOUSE ARENA OTA」を除くと、「夢のアリーナ」の多くはスマート・べニューに発展する形を想定しています。
その最たる例が長崎ヴェルカの「ハピネスアリーナ」でしょう。
②JR宇都宮駅から徒歩でいける範囲であり、アウェー客が車を使わず行ける
SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」は、温室効果ガスの排出を原因とする地球温暖化現象が招く世界各地での気候変動やその影響を軽減することが目標です。
アリーナを郊外に建設してしまうと、地元民は車で通い、アウェー客もバスを利用せざるを得ません。SDGsは日本ではかなり注目されているため、駅東公園の跡地はとてもよい判断と思いました。
11.終わりに
公設であれ民設であれ、アリーナはできて終わりではありません。収容率や稼働率を考慮しプロフィットセンターとしてふさわしくなければ、いずれチームは自走できずリーグから撤退することになるかもしれません。皆様の推しチームの「夢のアリーナ」はプロフィットセンターとなり地域を活性させられそうでしょうか。
以上