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筋腫や腺筋症に伴う過多月経のマイクロ波治療

筋腫が大きくても過多月経はMEA+TCMMで治療できる


以上のような筋腫のサイズに応じたマイクロ波照射時間の選択にしたがったTCMMをMEAに併用した治療の結果、過多月経の改善と筋腫組織の壊死と縮小という効果が得られました。子宮がずいぶん大きくなっている場合でも、筋腫の広い範囲が壊死した結果、筋腫が時間と共に縮小し、過多月経の改善とともに追加治療をするまでもなく無事に閉経する症例が多くなりました。TCMMによる筋腫の縮小効果をきっちりと示すのは、筋腫の大きさや子宮内の位置などが多様なために、意外と難しいのですが、筆者の畏友 marmar_001先生(津田 晃先生、山王レディースクリニック、秋田市)が、自身の治療症例を論文にまとめておられます(Outpatient transcervical microwave myolysis assisted by transabdominal ultrasonic guidance for menorrhagia caused by submucosal myomas. Tsuda A, Kanaoka Y. Int J Hyperthermia. 2015;31(6):588-92.)。 marmar_001先生は、MEAやTCMMに早くから取り組んでおり、多数の手術経験をお持ちです。この論文が示すように、TCMMで筋腫は壊死させることができ、術後に筋腫は縮小します。

子宮が大きくても、手術時間は短かった

前回の画像の投稿では、MEA+TCMMによる治療に挑戦していただいた巨大な子宮をもつ患者さんの治療前のMRI画像と、偽閉経療法後にMEA+TCMMを施行した術前後のMRI画像を示しました。骨盤部の縦断面画像からすぐに分かることは、偽閉経療法で筋腫を縮小させる前は臍高まである大きな子宮です。偽閉経療法後にはかなり縮小しています。さらにMEA+TCMM後には、MEAの効果で子宮腔周辺の組織が無血流領域に変化したことに加えて、TCMMの効果で筋腫の大部分が無血流領域になりました。過多月経の改善に加えて、壊死組織はその後、徐々に縮小し5年後には他の手術を追加するまでもなく閉経を迎えました。マイクロ波照射前後の子宮鏡による子宮腔内の観察と、MEAに650秒(50秒×13回)とTCMMに720秒の計1370秒におよぶマイクロ波照射時間を含めて手術時間は60分でした。

日常生活への復帰が早い


偽閉経療法で縮小したとはいえ、まだ子宮は大きいですから、この患者の腹腔鏡下子宮摘出術を60分で完了することは平均的な術者にはできないでしょう。さらに、患者さんが子宮全摘術の翌日に退院し、すぐに日常生活に復帰することはできないでしょう。ところがMEA+TCMMで治療したこの患者さんはすぐに日常生活に復帰できました。

MEA+TCMMのさらなる課題

1. 血流豊富な筋腫に対する対策
2. 壊死した子宮組織への逆行性感染を防止するための工夫

MEA+TCMMは強力に筋腫に伴う過多月経を治療できるのですが、症例を重ねるうちに上記2つの課題が浮かびあがってきました。

MEA+TCMMだけで血流豊富な筋腫に伴う過多月経を治療するための対策

一つは大きい筋腫が血流豊富である場合、マイクロ波アプリケーター表面から1.5~2cm以上の深部には熱伝導による壊死組織は拡がらないことです。これは、①マイクロ波照射開始からすぐにマイクロ波アプリケーターの近傍の組織からの発熱量が減少し始める ② 発生した熱は3次元に伝導されるので、マイクロ波アプリケーターから離れるほど、単位体積当たりの熱の流入量が少なくなることが原因でした。①、②が原因となって、血流量の多い組織では、すぐに血流による熱の運搬・流出が熱の流入を圧倒するようになり、周辺の組織温度が全く上昇しないという現象が起こります。

血流豊富な筋腫に対する対策

 マイクロ波照射による組織温度の上昇には2種類の機構が働くと考えられます。マイクロ波アプリケーター表面近くの筋腫組織はマイクロ波照射で自身が発熱し高温となります。いっぽう、マイクロ波アプリケーター表面から離れた組織は、高温となった組織からの熱伝導により温度が上昇します。
 熱伝導による単位組織当たりの流入熱量は、マイクロ波で発熱する組織から離れるに従い急激に減少することも説明しました。さらに組織を灌流する血流は熱を運び去り、温度の上昇を妨げます。恒温動物は組織温度を一定に保つために、局所的に組織温度が上昇してくるとその組織の血流量を増加させて熱を組織外へ運び去ります。灌流する血流が豊富な筋腫は自身を冷却する能力が高いため、3分間連続してマイクロ波を照射しても、熱伝導による遅延した壊死の誘導される範囲はマイクロ波アプリケーター表面から約15mm程度です。したがって、その血流豊富な筋腫が3cmを越える大きさであれば、壊死する範囲を広げる何らかの方策を講じる必要が出てきます。

次の投稿でMEA+TCMMで十分筋腫が壊死しなかった症例の画像を示すつもりです。



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