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240103 軟禁ホテル

 ウチら家族は、夫の父の母「おばあちゃん」がまだ存命だったころ、これから義母だけで介護するのは大変だろうからと、理由はそれだけでもなかったんだが、都内からこっちに引っ越してきた。そのおばあちゃんを93歳で看取り、また都内に戻りたいと思い始めたときには子どもらの転校がままならない状況が続いてそのまま住んで、当初2年ぐらいの予定が今や20年以上ここにいる。毎年年始に、作ったおせちのお重を持っておばあちゃんにお線香を上げに行くのが恒例になっていた。

 いま、夫の父92歳、夫の母88歳。去年、松の内が明けてすぐ、父が自転車で転倒したのを皮切りに次々とさまざまな不調が判明し、ヤバいインシデントが発生し、一年の半分はどっちかが入院しているみたいな状況に陥った。義兄は京都で開業しているので急にこっちに来ることはできない。それでともかくお金のかかることはすべて義兄が負担して、日々の通院、介護度認定、住宅改修などなどにはもっぱらウチの夫が対応してきた。一家にひとり、気前の良い金持ちがいると大変助かる。

 さてその義父母が、年末年始は温泉のあるホテルでゆっくり過ごしたいと言い出した。歩行器と杖の二人でホテルに連泊したところで散歩に出られるわけでもないしそんなの何か楽しいのか?と内心わたしは思ったが、気前の良いお義兄さんはそれを聞いてさっそくBooking.comを検索し、「おっ、このプラン安いな」と言って中禅寺湖の金谷ホテルを30日から年明け3日まで予約した。お義兄さんの「安い」は30万円であった。ま、よく考えれば4泊2人なら安いや。
 が、しかし、そこは中禅寺湖なのであった。二人を連れて行くのはウチの夫である。最初、車に乗せて連れて行くだけと思ったが、中禅寺湖はいろは坂の先。いまは冬。あのつづら折りの坂に雪が降って凍ってしまったら……? そりゃ無理だ!ということになって、東武のSPACIAに乗せてそのあとはホテルのバスでと算段して、じゃ、浅草までタクシーで行って電車に乗るところまで見届ければよいのでは? ところがホテルのバス、日光の金谷ホテルまではあるが中禅寺湖のほうはないと言う。ええええええ?! 仕方ない、東武日光からタクシーで行くしかない。ということは誰か(とはウチの夫)ホテルまでずっと付いて行かなくてはならない。そういうプランで行くことを夫が義兄に相談したら、義兄は速攻でタクシー券の綴りを3冊送ってきた。

 そういうわけで今年は、年始のお重を持って出かける用事はなくなったのだが、いつでも中禅寺湖に駆け付けられる態勢でいる必要はあった。夫のケータイが鳴るたびに少し緊張して耳をそばだてていたのだが、何回かかかってきたその全部が、部屋でテレビを観て寝るしかやることがないという不満と料理はおいしいというとってつけたような感謝に終始していたことに安堵。

 1月3日朝、義父母を軟禁状態のホテルから脱出させるべく夫が出発。夕方、無事に帰ってきた。来年は、来年がもしもあるのならば、どうか熱海にしておくれ。 

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