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2018/09/11 いつかは疲れて泣き止む

7:56

今日は少しゆっくり眠れた。夢には出て来てくれなかった。もうちょっと待とう。気温22度、予想最高気温は25度。涼しい朝に秋の気配を感じてしまう。季節は少しずつ、でも着実に進んでいく。奏くんがいた日々から遠ざかっていくようで、苦しくなる。また朝が来て、目を覚ます。スナフィーと私だけの寝室。一ヶ月以上も重ねてきた朝。明らかに慣れてしまっている。それが寂しい。

朝八時のチャイムが鳴る。「ゴミ出さないとね、奏くん」。そろそろ出ないとね、奏くん。朝ごはんどうする、奏くん。暮らしの言葉には宛先があった。「ゴミ出さないと」言葉がどこかに消えていく。

8:29

祭壇の前に座り、遺影を眺める。昨夜の会話を思い出していた。優秀な経営者である大野さんは、平日に子供たちが起きている顔を見ることはほぼないらしい。奏くんは、家族との時間を第一にする人だった(どちらが良い悪いの話では全く無い)。なのに。私はなんで、仕事ばかりしていたんだろう。仕事を最優先に動き、一緒にいても頭の中は仕事のことばかり。どれだけ本当の意味で「一緒にいた」のだろう。

昨夜のことで、そっと寄り添ってくれる人とでないと一緒にいる時間が苦しい、ということがわかった。力になろう元気づけようとしてくれる姿は有り難い限りで、選ぶような立場ではない。でも今はまだ、話す内容も、テンションも、場の雰囲気も、対応できるものが極端に少ないんだ。…疲れているのかもしれない。

スナフィーの散歩に行かないといけないのに、体が動かない。近所を歩きたくない。人と会うのも、挨拶を交わすのも、簡単な立ち話すらも嫌だ。車で出る?一緒に行ったところしか思いつかない。初めての場所へ冒険する気力もない。奏くんが知らない場所が自分のなかに増えるのも嫌だ。座ったままで、動けない。

たぶん昨日ので疲れたんだな。またひとつ学ぶ。今の自分がどういう状態で、何を受け入れられて、何が適さないのか。こんなことになったことなんてないから、全然わからないよ。

ねえ奏くん

なんでこんなことになっちゃったの

なんでひとりにするの

10:11

梨衣ちゃんは、そっと側にいてくれる。それにどれほど救われているか、ようやく気がついた。その身を裂くような痛みを知っているからだろう。電話が鳴る。梨衣ちゃんだった。以心伝心か。

「大丈夫?生きている時間の半分くらい零ちゃんのことを考えているよ」

有り難さに、言葉にならなかった。大野さんが物凄く心配してくれていて、大野さん一家と一緒に暮らせないかと考えていると聞く。これには本当にびっくりした。私からは友人が東京から来てくれていることを伝える。

「愛されてるね、行動にできる人は信用できるよね」

23:57

夜遅くまで、ケビンといろんなことを話した。まるでセラピーのような時間だった。ケビンはリビングのカウチで眠っている。奏くんのことや渦巻く気持ちを親しい友人や家族に聞いてもらう。彼らは、耳と体と心で受け止めて、ただ、側にいてくれる。状況は最悪最低だけど、それでも今日も、幸せだと思う。

気温は19度まで下がっている。毛布一枚では寒い。季節が進む。秋が来て、やがて冬を迎える。気持ちが沈む。奏くん。私、信じられないよ。今、自分が置かれているこの状況が。そろそろ夢で会いたいよ、会えないの?だめなの?奏くんの映る動画を観る。撮っておいて良かったと心底思いながら。でももっと、いつもの日常を撮っておいていたら…。だめだ、これ以上考えると辛くなるだけだ。だめだ。眠れなくなっちゃう。だめだ。

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