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8万時間で自転車をつくる - メンバー紹介 久本

こんにちは! Legalscape ソフトウェアエンジニアの久本(@sorami)です。全ての法律情報を一目で見渡せるようにするお仕事をしています。

この会社には2020年11月に入社しました。それ以前にお手伝いしていた期間も含めると、もう1年以上関わっています。

当記事では、私の経歴、この1年間の仕事、そしてこの会社を選んだ背景について述べます。

自然言語処理から法律へ

私はもともと、コンピューターで人間のことばを扱う「自然言語処理」(Natural Language Processing, NLP)という分野の研究に携わっていました。

日米の大学での学術研究や、コンサルティング会社でのデータ分析業務を経て、直近では企業の研究所にて研究開発を行っていました。この研究所では「Sudachi」という NLP 基盤ツールの開発に従事していたのですが、それが Legalscape との出会いへ繋がりました。

あるとき、一般公開しているこのツールに「間違ってる部分がありますよ!」と見知らぬ方から修正パッチ(Pull Request)が送られてきました。わざわざ送ってくれるなんて、どんな人だろうと調べてみると、それが Legalscape 共同創業者 CTO の城戸でした。そこから会社のことを知り、これは私の興味や経験とマッチすると思い連絡して、お仕事を手伝うようになり、そして双方の信頼醸成を経て正式に入社しました。ちなみに私は退職後も Sudachi にはコントリビューターとして関わっています。

この経緯は以下のデータサイエンス・AI系ポッドキャストでも、城戸と私で詳しく話しています。ご興味あればお聴きください:

(余談ですが、城戸も私も Unihertz Atom という2.5インチ極小スマホを持っていて、それで意気投合したというのも、入社の動機として2割くらいありました。それまでもそれからも、Unihertzのスマホを使っている人には(というか知っている人にすら)会ったことがありません)

Legalscape での1年間

私が Legalscape に関わり始めてから、あっという間に1年以上が経ちました。まだ10名程度の小さなチームで、また私も「なんでもやりたい」と主張してきたため、自身の専門である NLP に限らず、幅広いタスクにこれまで携わってきました。

現時点での弊社のメインプロダクトは、法務従事者へ向けた、専門書や官公庁資料、法令といった様々な情報を閲覧できるウェブサービスです。どんなプロダクトなのか、そしてそもそも「なにが問題なのか」については、以下の記事をご覧ください:

一般的なウェブ開発として、 Vue.js, Nuxt.js などを用いたフロントエンド、Node.js や Google Cloud Platform 各種サービスを扱うバックエンド、 Figma での UI プロトタイピングからユーザーヒアリングまで、様々なタスクに携わっています。

ウェブ開発に加え、私の専門分野である NLP を活用する「判例仮名処理」にも取り組んでいます。これは法務省や日弁連、各所有識者の方々と共に取り組んでいる国家プロジェクトの一部で、裁判結果のデータ公開を阻むプライバシー課題を NLP で解決しようという取り組みです。プロジェクトの全体像や、 NLP がどう関わるかについては、以下の記事をご覧ください:

NLP 関連としては、今年(2021年)3月には当分野の国内最大イベント言語処理学会第27回年次大会にもゴールドスポンサーとして協賛しました。以下は企業ブースでの展示ポスターです:

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他に NLP だけに収まらない総合格闘技的なトピックとして「検索の改善」があります。弊社は簡単に言えば「法律版の Google」を構築しています。求める情報へユーザーが容易にたどり着けるよう、全文検索エンジン Elasticsearch のチューニングやインフラ整備、検索用言語資源の構築などを行っています。しかし、現在は専業の検索エンジニアがいません... 絶賛募集中です!

また、弊社の中核を成すといっても過言ではない「データの作成」があります。例えば、官公庁資料や書籍など多くの文献は元データが PDF としてのみ存在します。そこから文書の構造化や、文書間の引用関係ネットワーク構築といったことを実施しています。単なる PDF ビューアーでは、驚くような利便性向上は望めないからです。既存の NLP などで自動化できる部分もありつつ、アノテーター作業も必要となる地道なステップです。しかし AI だ DX などと言っても、まずはちゃんとしたデータがないとなにもできません。業界は違えど機械学習やデータ分析へ携わる方々には、実感を伴って共感していただけるのではないでしょうか。

そして我々は今年(2021年)6月に正式版リリースを行い、ユーザーも順調に増えている中で、組織を拡大していくフェーズに来ています。先述の検索エンジニアに加え、機能開発のためのアプリケーションエンジニアや、信頼置けるサービスを提供するための SRE 、 SET/QA を募集中です。加えて、求人票はこれからですが、 PdM営業マネージャーカスタマーサポートマネージャーの募集も始めます。ご応募お待ちしております!

人生の8万時間をどう使うか

そもそも法律と縁遠かった私が、なぜこの会社を選んだのか、その背景を少し解説させてください。

80,000 Hours という組織があります。個人による社会インパクトをどう最大化できるか研究する NPO です。Y Combinator から投資を受けていることでご存じの方もいるかもしれません。団体名は、一般的にひとりが人生で仕事へ費やす時間を指しています(週40時間 × 年50週 × 40年間)。私の意思決定には、他の様々な情報に加え、彼らの話が参考になりました。

(当団体の研究結果や背景となる効果的利他主義について、日本語で読める情報としては訳書『〈効果的な利他主義〉宣言!』があります)

キャリアを通じて社会へ影響を与えるには、直接的に慈善団体で働くというやり方であったり、はたまた多く稼ぎそれを還元するという方法など、多様な形があり得ます。様々な道の可能性を踏まえつつ 80,000 Hours は、「何に取り組むか」を考えるときには、以下3点の検討が有用だと主張します:

1. 規模の大きさ(Big in scale)
2. 見過ごされている度合い(Neglected)
3. 解決可能性(Solvable)

上記3つの観点から見て、 Legalscape のやっていることはどうでしょうか。

まず「規模」ですが、現時点での直接的な対象者は弁護士などの法務従事者であり、その全数自体はそう大きくありません。しかし「法」は、法治国家の根底を成し、全国民が影響下にあるものです。その点から、社会への影響を大きくすることは可能だと私は考えます。また将来的には弁護士業務に留まらず、人間能力に頼り過ぎているためミスが相次ぐ立法・改正の補助であったり、専門家でない国民が法へアクセスする際の手助けなど、対象を広げていくことも可能でしょう。

次に「見過ごされている度合い」です。情報技術業界から見て法曹界は縁遠いところです。例えば広告やEC事業などであれば、既に多くの会社があり、また優秀な人材も多数集まっています。他方、法律であったり、医療や不動産、製造などのより伝統的な業界はそうではありません。そういった領域において、ひとりの情報技術者が与えられる影響は相対的に大きいと私は考えます。また法律領域の中でも、契約書レビューなどと比べてリーガルリサーチは重要度の割に注目度が低いと感じます。

最後に「解決可能性」について。法律領域と情報技術の親和性はかなり高く、短期的にも長期的にもできることが数多くあると私は考えています。法律は、人間が理性によって作り上げた論理の世界です。規則的な言語表現は、一般的な NLP が直面する難題を回避可能にします。引用関係は明示的なグラフ構造であり、これもコンピューターと親和性が高いものです。データとツールを適切に構築することで、従来の「紙とペン」では到達できない、より生産的な形が実現できるのではないでしょうか。

「精神の自転車」としてのコンピューター

コンピューターの歴史には「人間能力の拡張」という視点が脈々と在り続け、これに私は強い共感を抱いています。これは、近年話題に挙がる人工知能の歴史とは隣接しつつも、似て非なる系譜です。

20世紀にヴァネヴァー・ブッシュやダグラス・エンゲルバート、アラン・ケイといった先駆者らによるビジョンが掲げられ、近年においてもその思想を引き継いだ NotionObservableRoam Research といった具体的なプロダクトが様々な分野で創られ続けています。

インターフェースデザイナーの Bret Victor も述べるように、現代においてもコンピューターは未だ「紙とペン」からなる世界の延長にあります。しかしこのメタメディアたる装置の表現力を、その模倣に留めておく必要はないでしょう。19世紀末、最初期の映画ではカメラは固定され、それは「客席から観る舞台演劇」の延長にありました。それを経て20世紀には、映像だからこそ可能な新しい表現が発明されてきたわけです。コンピューターによる表現も同様に、これから芽吹くものが多くあると思います。

電子書籍であったり、新聞の電子版や学術論文など、新しいメディアの力を持て余している事例は多々あります。「まあまあ便利だけれども、やっぱり紙のほうがいいよね」という現状を超えていく、新たなメディア表現の実現へ向けては、まだまだ模索が続くでしょう。例えば以下のサーベイ論文では様々な分野における試みが紹介されています。とても刺激的だと私は感じます。

さて、私は自転車が趣味なのですが、これは運動効率の優れた乗り物です。ロードバイクであれば初心者でも 50km くらいはすぐ走れます。フルマラソン以上の距離を、自力によりたった数時間で移動できてしまうのです。これが徒歩であれば、どれだけの時間と労力がかかるでしょう。人間拡張の流れに連なるスティーブ・ジョブスは、コンピューターを「精神のための自転車(Bicycle for the Mind)」と評しました。そもそも法律領域では、模倣ではなく実際の「紙とペン」がまだまだ主要な世界です。自転車の前にまず道路を整備する必要があるでしょう。先は長いですが、人間のできることを広げる意義ある取り組みだと私は思います。

Legalscape へのお誘い

ここまで、私の経歴、この会社で関わってきたお仕事、そして参画に至った背景を解説しました。

大きな話も述べましたが、現状として我々はまだ10名程度の小さな組織で、やりたいことに対して人手がまだまだ足りていません!幸いなことにユーザー数は順調に増加していますが、それに組織が追いついていない状態です。

ここまで読んでくれたあなた、もしご興味持って頂けたのであれば、応募してみませんか?もしくは、すぐに応募とまではいかなくても、少しだけ興味は湧いたかな、ということであれば、ぜひカジュアル面談をさせてください!

さらにハードル低く、会社のことに限らず私個人と雑談したい場合には、よりインフォーマルな面談チャンネルもありますのでご利用ください:

お話できるのを楽しみにしております!

もっと知りたい方へ: 弊社参考資料

共同創業者 CEO 八木田による3分ピッチ:
(2020年2月、ベンチャーキャピタル Coral Capital 主催イベントにて)

IPA未踏事業冊子「MITOU: Ingenious Creators - ITで切り拓く未来」:
(Legalscapeは「未踏アドバンスト」2017年度採択PJから始まりました)

朝日新聞EduA:
(「東大生と起業」シリーズ 第2回)

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この他にも、 note で会社の情報発信をしています:

当記事では述べませんでしたが弊社には、個性的で、そして優秀で信頼の置けるメンバーが揃っています。それも私が入社を決める大きな動機になりました。ご興味あれば、他のメンバー紹介もぜひご覧ください: