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#199 「空知土地改良区事件」札幌地裁滝川支部

2008年1月9日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第199号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【空知土地改良区(以下、S組合)事件・札幌地裁滝川支部判決】(2006年3月29日)

▽ <主な争点>
役員に対する酒席等での暴言を理由とする降職処分等

1.事件の概要は?

本件は、S組合の総務部長および出納責任者の地位にあったXが、違法な降職処分を受けて給与が減額された上に精神的苦痛を負ったほか、同時期に不合理な退職給与規程の改正をされて将来支給を受けるべき退職手当が減額される不利益を受けた旨を主張し、S組合に対して、(1)現在も総務部長および出納責任者の地位にあることの確認、(2)減額分の給与の支払い、(3)上記精神的苦痛に対する慰謝料の支払い、(4)上記退職給与規程の改正が無効であることの確認を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<S組合、X、A監事およびB理事等について>

★ S組合は、土地改良法に基づいて設立された土地改良区であり、組合員から徴収する賦課金や国または地方公共団体から交付される補助金等により土地改良事業を行う公共組合である。同組合の職員はXを含めて13名である。

★ X(昭和24年生)は、昭和43年9月からS組合の職員として勤務しており、平成10年8月に総務部長および出納責任者の職に就き、16年12月10日までその地位にあった者である。

★ Aは、昭和50年から63年まで、S組合の総代を務め、同年12月に同組合の監事に就任し、平成8年から総括監事となっている。

★ Bは、平成12年12月にS組合の理事に就任し、16年12月からは同組合の副理事長を務めている。

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<本件降職処分に至った経緯およびS組合の服務規程等について>

▼ 16年7月、XとA監事は監査終了後に行われた慰労会に出席したところ、XはA監事に対し、「監事のおかげでS組合も職員の立場もめちゃくちゃにされた」などと申し向け、十数分程度の言い合いになった。

▼ 同年8月、Xは運営協議会後の懇親会に出席し、B理事らと酒席をともにした。両名は、懇親会終了後、宿泊施設において同室であったことから、室内で飲酒を始めたが、XはB理事に対し、「お前なんか理事を辞めろ。次の改選期には出てくるな」などと発言したところ、B理事も憤慨し、十数分程度の言い合いにあった。

▼ 同年12月、S組合代表者は、同年11月に開催された理事会における承認を受け、Xに対し、Xの役員に対する上記の言動行為が「職員の服務等に関する規程」(以下「服務規程」という)に定める懲戒事由「職務に必要な適格性を欠く場合」に該当するとして、同規程に基づき、Xを総務部長および出納責任者の職から解き、技師に任命して管理係長を命ずる旨の降職処分をした(以下「本件降職処分」という)。

▼ S組合は本件降職処分にともない、Xの基本給を月額47万4000円から45万1100円に減額し、また、管理職手当(月額4万7400円)の支給を停止したため、月額7万0300円の減額となった。

★ S組合の服務規程には以下のような定めがある。

第4条第1項 理事長は、職員が次の各号の一に該当する場合には、降職または解雇することができる。

(1)勤務成績が良くない場合
(2)心身の故障のため職務の遂行に支障があり、またはこれに耐えない場合
(3)その他その職務に必要な適格性を欠く場合
(4)業務量の減少その他業務運営上やむを得ない事由が生じた場合

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<本件退職給与規程改正に至った経緯等>

★ S組合が平成3年8月に制定した退職給与規程においては、「退職手当の算定の基礎となる勤続期間は、勤続年数35年(支給率63.5)を最高限度とする」旨が定められていた。

★ S組合に対する補助金等は、国や地方公共団体の財政状況から削減される傾向にあり、同組合の組合員の農業経営も安定しているとは言い難い状況にある。そのため、S組合は職員の待遇について、人事院勧告や周辺の地方公共団体の水準と大きく齟齬が生じないように調整しようとしていた。

▼ 16年2月、S組合の監事は監事会において、「地方公共団体においては財政難から手当や給与の改定が検討されている。公務員に準ずる待遇を受けているS組合においても、役員報酬や職員給与の改定をしなければ組合員の理解を得られない」旨の意見を述べた。

▼ 同年7月、S組合の監事は監事会において、「国家公務員および地方公務員に係る退職給与の見直しが検討されているが、S組合においても地方公共団体に合わせる方向で、退職給与規程を早急に見直すよう検討することが望ましい」旨の意見を述べた。

▼ 同年8月、理事会において、退職手当支給率の改正を17年4月から実施すること、滝川市職員の水準に合わせ、最高を59.28とする支給率表を使用すること、自己都合退職率を設けることで、合意を得た。

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