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#554 「独立行政法人 日本スポーツ振興センター事件」東京地裁

2022年1月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第554号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【独立行政法人 日本スポーツ振興センター(以下、Nセンター)事件・東京地裁判決】(2021年1月21日)

▽ <主な争点>
無期職員と契約職員との地域手当、住居手当等に関する待遇差など

1.事件の概要は?

本件は、Nセンターと期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結しているXが、(1)Xの学歴・経歴によれば、Nセンターの基準に照らし基準月額を81号俸とすべきであるのに、基準月額を61号俸とする労働契約の締結を余儀なくされた、(2)同センターが期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している職員に対して支給している地域手当および住居手当をXに支給せず、また、無期労働契約において設けている昇給基準をXに適用せず昇給させないのは不合理な労働条件の相違であり、平成30年法律第71号による改正前の労働契約法20条*に違反する旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として2016年4月分から2019年7月分までの基準月額、地域手当、住居手当、基準月額に連動する契約職員手当、超過勤務手当および特別手当の各差額賃金相当額701万1762円および遅延損害金の支払を求めたもの。

*同条は、改正により削除され、令和2年4月1日施行の短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「有期雇用労働者法」という)8条に統合された。同条は上記改正前の労働契約法20条の内容を明確化して統合したものであるから、以下、同法20条に関する当事者の主張は有期雇用労働者法8条**による主張と整理した上判断する。

**有期雇用労働者法8条(不合理な待遇の禁止)
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」

2.前提事実および事件の経過は?

<NセンターおよびXについて>

★ Nセンターは、スポーツの振興および児童生徒等の健康の保持増進を図るため、学校の管理下における児童生徒等の災害に関する必要な給付その他スポーツおよび児童生徒等の健康の保持増進に関する調査研究等を行い、もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的とする独立行政法人である。

★ Xは、2016年4月、Nセンターとの間で契約職員として「契約期間:1年、勤務地:東京都、基準月額:61号俸」等とする有期労働契約(以下「本件契約」という)を締結し、それ以降、同様の契約を更新し、同センターにおいて就労している者である。なお、Xは京都市内に居住していたところ、Nセンターにおける勤務に備えて東京都内の居室の賃貸借契約を締結した。

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<Xの基準月額、勤務成績および昇給等について>

★ XはNセンターとの間で、以下の期間および基準月額で有期労働契約を更新していた。
  2017年4月1日~2018年3月31日 基準月額65号俸
  2018年4月1日~2019年3月31日 基準月額71号俸
  2019年4月1日~2020年3月31日 基準月額77号俸
  2020年4月1日~2021年3月31日 基準月額81号俸

★ Xの2016年度、2017年度および2018年度の業績評価はいずれもAであった。また、同年度の能力評価はそれぞれ4+、5、5であった。

★ Nセンターが2016年度以降の各年度末の契約更新時に提示した昇給号俸数はいずれも4号俸であったが、2017年度および2018年度についてはXが同センターと交渉をした結果、6号俸となった。

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<Nセンターの就業規則等の定めについて>

★ Nセンターは無期雇用契約を締結している労働者を「職員」と称し(以下「無期職員」という)、同センターと有期雇用契約を締結している労働者については、「契約職員」「契約職員(事務)」、「契約研究員(医師)」および「契約研究員」という4つの区分を設けて雇用しており、それぞれに適用する就業規則を定めている。

★ 契約職員に適用される契約職員給与規程には以下の趣旨の定めがある。

(ア)契約職員の給与は、基準月額、契約職員手当、通勤手当、超過勤務手当、宿日直手当および特別手当とする。
(イ)契約職員の基準月額は、その職務の複雑、困難および責任の度合いならびにその者の学歴、経験および能力を総合的に勘案し、その者の採用時の経験年数を基準に予算の範囲内で決定し、経験年数に1年未満の端数がある場合は、6月以上の場合には1号俸、9月以上の場合には2号俸を加算することができる。
経験年数には大学院における在学年数を含むことができ、学位(職務に関係があると認められるもの)を取得している者については、博士の場合は2年、修士の場合は1年を経験年数に加算することができる。
(ウ)昇給については、契約職員が契約を更新する際に現に受けている号俸を受けるに至った時から12ヵ月を下回らない期間を良好な成績で勤務したときは、4号俸上位の号俸に昇給させることができる
契約職員の勤務成績が特に良好であると認められる場合または他の契約職員との権衡上必要と認められる場合には、現に受けている号俸より6号俸以上上位の号俸に昇給させることができる。

★ 無期職員に適用される職員給与規則には以下の趣旨の定めがある。

無期職員の給与は、基本給および諸手当とする。基本給には本給および扶養手当があり、諸手当には地域手当、広域異動手当、住居手当、通勤手当、単身赴任手当、初任給調整手当、超過勤務手当、管理職手当、管理職員特別勤務手当、放射線取扱手当、宿日直手当、期末手当、勤勉手当および寒冷地手当がある。

★ 職員の昇給基準に関する取決め(以下「本件昇給基準」という)は、職員給与規則の規定に基づき、職員を昇給させる場合の昇給基準に関し、職員給与支給細則に定めのあるもののほか、必要な事項を定めるものである。

3.契約職員Xの主な言い分は?

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