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#422 「X高等学校事件」東京地裁

2016年10月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第422号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X高等学校(以下、X校)事件・東京地裁判決】(2015年2月18日)

▽ <主な争点>
諭旨解雇と普通解雇の効力など

1.事件の概要は?

本件は、X校と雇用契約を締結して労務を提供してきたYが、同校がした諭旨解雇および普通解雇がいずれも無効であると主張して、X校に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに雇用契約に基づく賃金請求権に基づき、諭旨解雇後の未払賃金等の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X校およびYについて>

★ X校は、中等普通教育および高等普通教育を行うことを目的とする学校法人であり、東京都内に男子校である中学校および高等学校を設置している。

★ Y(昭和50年生)は、平成17年4月、X校との間で雇用契約を締結した教員であり、英語科教諭や剣道部顧問等として稼働していた者である。

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<本件諭旨解雇に至った経緯等について>

▼ Yは平成24年9月20日、東京都青少年の健全な育成に関する条例(以下「都条例」という)違反の被疑事実(同年4月5日、Yが18歳未満と知りながら女性(本件女性)と性交を行ったこと。以下「本件被疑事実」という)により、警視庁S警察署に通常逮捕された。

▼ Yが釈放された後、X校は就業規則に基づき、調査委員会を設置し、同校の理事で法律顧問でもある弁護士ら5名に委員を委嘱した。

▼ 上記調査委員会はYについて諭旨解雇が相当であると答申したが、その理由として「Yが都条例違反の容疑で逮捕されたことは起訴されるか否かにかかわらず、X校の信用および名誉を傷つけたことに加え、本件女性が未成年者であり、同年代の生徒を教育するX校の教員としてあってはならないことであるから、本来は懲戒解雇に値する行為であるが、Yが自発的に退職願を提出し、深く反省していると判断されること、37歳という将来のある年齢であることに鑑みて、懲戒処分を一段階免じて諭旨解雇が相当であるとの結論に至った」としていた。

▼ X校は同年10月、同月31日をもってYを諭旨解雇する旨の意思表示をした(以下「本件諭旨解雇」という)。

★ X校の主張するYの非違行為は、同年4月2日に池袋でナンパした本件女性とカラオケ店で性交類似行為を行い(以下「本件非違行為1」という)、また本件女性を4月5日にYの自宅マンションに宿泊させ性行為をし(以下「本件非違行為2」という)、その際、本件女性が18歳未満であるとYは認識しており、同女性と真剣な交際をしたことはなかったから、都条例18条の6* 違反の犯罪が成立するというものであった。

* 都条例18条の6(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)は、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない。」と規定している。

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<本件諭旨解雇後の状況、不起訴処分、本件普通解雇等について>

▼ 24年10月、X校はYに対し、退職手続書類を送付し、これを受領したYは各書面に必要事項を記入して返送した。

▼ Yは同年11月、X校に電話をかけ、不起訴処分となる可能性が非常に高いこと、不起訴処分がされた場合にはX校に復職したいこと、それができないのであれば、本件諭旨解雇を撤回し、X校のホームページに訂正文を掲載することなどを求めたが、X校は本件諭旨解雇に係る決定が覆らないことを回答した。

▼ Yは25年4月から別の高等学校において常勤講師として勤務し、26年4月からは常勤専任講師として勤務しており、同校の社会保険にも加入している。

▼ 東京地方検察庁の検察官は25年3月、本件被疑事実につき嫌疑不十分で不起訴処分とした、その後、X校において、26年10月26日をもって普通解雇する旨記載した準備書面がYの訴訟代理人(弁護士)に送付された(以下「本件普通解雇」という)。

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<X校の就業規則について>

★ X校の就業規則には、次のような定めがある。

(懲戒)
第72条 教職員が第74条および第75条に掲げる行為をした時は、本章の規定に基づいて理事長が懲戒を行う。但し、第73条第7号(懲戒解雇)に定める処分をする場合は理事会の議を経て行う。また、出勤停止以上の懲戒に該当すると判断される時は、査問のため調査委員会を設ける。

3.教員Yの主な言い分は?

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