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#122 「アートネイチャー事件」東京地裁

2006年2月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第122号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【アートネイチャー(以下、AN社)事件・東京地裁判決】(2005年2月23日)

▽ <主な争点>
競業避止義務違反と損害賠償/営業秘密使用差止等

1.事件の概要は?

本件は、(1) X社ならびに、AN社の元従業員でその後X社に就職したAら4名が顧客情報およびこれを含む顧客名簿(以下「本件顧客名簿」という)について、不正競争防止法に定める不正取得行為、不正取得後の使用行為等の不正競争行為を行ったこと、(2) AらがAN社を退社した後に同業のX社に就職したことは、AらのAN社に対する競業避止義務違反を構成すること、(3) 本件顧客名簿を使用したAらの競業行為は不法行為を構成することに基づき、AN社が (a) X社らは顧客目録記載の者に対し、製品の販売または役務の提供等をしてはならないこと、(b) 顧客目録記載の者の氏名および連絡先等の情報が記載されているX社らの占有にかかる名簿・磁気ディスク、その他一切の記録媒体を廃棄すること、(c) 本件顧客名簿の全部もしくは一部を使用し、または第三者に開示もしくは使用させてはならないこと、(d) AN社に対し、各自損害賠償を支払うこと等を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<AN社、X社およびAらについて>

★ AN社は毛髪製品の製造および販売、ならびに毛髪育成指導および美容・理容業等を目的とする会社であり、福島県内に郡山店など複数の店舗を有している。

★ X社は毛髪製品(カツラ等)の製造および販売、理容業、美容業、建築の設計施工等を目的として設立された会社で、平成14年11月頃から福島県郡山市内で「ワンズクラブ」という名称の美容室を営業し、カツラのメンテナンスおよび美容業を行っている。

★ A、B、CおよびDはいずれもAN社の郡山店などで技術者、営業担当者あるいは店長等として勤務していたが、13年から14年にかけて、AN社を退職した後、X社に入社し、ワンズクラブで勤務するようになった。

★ ワンズクラブは、他社製品の顧客もX社のメンテナンスサービスを利用できること、修理代金が格安であることを中心に積極的な宣伝活動を行った結果、16年8月頃までに130名程度の顧客を獲得していた。

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<本件顧客名簿およびその管理状況等について>

★ 本件顧客とは、従前AN社の郡山店等の顧客であったが、その後、ワンズクラブに来店し、契約等をした顧客18名を指す。

★ 本件顧客名簿とは、「開発リスト」「お客様カルテ」と題する書面またはコンピュータに記録された「AN社の顧客および新規問い合わせ者に関する氏名、住所、電話番号、勤務先、契約商品、入金額」を指し、非公知のものである。

★ 開発リストおよびお客様カルテは、専用の鍵付書類ロッカーに保管され、閲覧できる者が新規営業担当者等に限定されていた。また、コンピュータに保存されている顧客情報の閲覧は、段階的パスワードにより、一般の従業員は顧客の電話番号や住所の閲覧ができないようにされていた。

★ AおよびCはAN社郡山店在職中に、職場において私有パソコンを使用したことがあったが、これは上司の承諾の下に業務用として使用したものであり、AN社から私有パソコン持ち込み禁止の指示が出された後は自宅に持ち帰っていた。

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<本件誓約書について>

★ Aらが署名押印してAN社に提出した秘密保持誓約書(以下「本件誓約書」という)には以下のとおりの記載があるが、合意内容が就業規則等の社内規則の規定に基づくことや、それらに依拠するものであることを示す記載はない。

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