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#265 「X社事件」東京地裁

2010年8月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第265号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X社事件・東京地裁判決】(2010年2月8日)

▽ <主な争点>
情報システム専門職から倉庫係への配転命令の効力等

1.事件の概要は?

本件は、X社情報システム部で就労していたYが、銀座店ストック(倉庫係)に配転されたことについて、同配転が情報システム専門職にかぎるとの職種限定の合意に反し、また、配転命令権を濫用した無効なものであると主張して、当該配転先で就労する雇用契約上の義務がないことの確認を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料の支払い等をX社に対し求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X社およびYについて>

★ X社は、皮革製品、衣料等の輸入販売等を業とする会社(日本法人)であり、平成20年10月当時、銀座店のほか、有名デパート等に数十店の店舗を有し、その従業員(いわゆる正社員)は約750名であった。

★ Yは、日本IBM(以下、N社)において約8年間、システム・エンジニア等として、ITプロジェクトに携わった後、平成14年7月、X社に採用され、同社との雇用契約(以下「本件雇用契約」という)に基づいて、本社情報システム部において、チーフとしてその業務に従事した者である。

★ X社がYを採用する際、Yに対して交付した採用通知書(以下「本件採用通知書」という)には、「被雇用者」、「雇用開始日」、「勤務時間」、「勤務地」、「雇用内容」、「休日」、「有給休暇」、「給与」および「給与見直し」の各項目があり、「その他の項目はX社就業規則による。」と記載されている。また、本件採用通知書の勤務地および雇用内容の記載は、「勤務地:本社、雇用内容:情報システム部チーフ」であった。

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<本件配転命令がされるまでの経緯等について>

▼ YはX社に採用されてから約5年半にわたり、情報システム部において、プロジェクト・リーダーとして、同社の約20店舗の情報システムの新規提案等の業務を遂行してきた。

▼ X社においては、19年12月、銀座店ストック担当の正社員1名が退職を表明し、欠員が生じることとなったことから、20年1月から業務委託先所属の人員を配置していた。なお、銀座店ストックは本社ビルの地下2階にあり、銀座店の皮製品および洋服等の在庫を管理している。

▼ 当時、Yは店舗の仮店舗への移転に伴うプロジェクトのリーダーを務めていたが、その実作業を担当していたAがYの依頼に対応せず、また、同作業に関する情報をYに伝えなかったこと等から生じたトラブルの結果、20年1月、上司である部長に同プロジェクトから外れるように指示された。

▼ X社においては、銀座店ストックの欠員について、商品管理や施錠管理等のセキュリティ保持が必要であるため、能力および責任の観点から、正社員の外部採用をも含めて検討したが、既存の正社員の配置転換により補充することとし、情報システム部に所属していたYを配転することに決定した。

▼ X社はYに対し、同年3月16日で所属を「銀座店 ストック」、メチエ(仕事)を「事務」とする配転命令(以下「本件配転命令」という)を発した。

★ 本件配転命令により、Yは就業内容と勤務時間に変更が生じたほか、給与自体に変化はないものの、裁量労働制が適用されなくなった結果、月額2万8200円の裁量手当が支払われないこととなった。

★ X社においては、平成13年以降、情報システム部から他部署への異動者が3名存し、ロジスティック部へ2名、総務部へ1名がそれぞれ異動している。また、他部署から銀座店ストックへの異動者も3名存し、ロジスティック部から2名、時計事業部から1名がそれぞれ異動している。

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<X社の就業規則の規定について>

★ X社の就業規則(以下「本件就業規則」という)には、以下の規定がある。

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