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#249 「ニュース証券事件」東京地裁

2009年12月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第249号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 「解約権留保の趣旨」とは

解約権留保の趣旨・目的は、企業が従業員の採用にあたっては、採用決定の当初の段階ではその者の資質、性格、能力等が当該企業の従業員としての適格性を有するか否かについての必要な調査を十分行えないために、後日における調査や観察にもとづいての最終的な決定を留保することにあり、かかる趣旨に照らせば、留保解約権の行使による解雇については通常の解雇よりも広い範囲で認められてしかるべきではあるが、法が解雇に制限を加えている趣旨や企業が一般的に個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあること、試用者は、従来勤務していた企業を退職したばかりか、本採用を期待して他企業への就職の機会と可能性をも放棄している等の事情もまた存するのであるから、これらの事情に照らすと、留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認されうる場合にかぎり認められるとするのが相当である。
(最判昭和48年12月12日)

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■ 【ニュース証券(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2009年1月30日)

▽ <主な争点>
試用期間満了前の解雇の効力等

1.事件の概要は?

本件は、Xが試用期間満了前の解雇は無効であるとして、N社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および未払い給与等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xおよび本件雇用契約書等について>

★ Xは、平成19年5月、勤務していたO証券を退職し、N社に期間の定めのない雇用契約により営業職の正社員として雇用された。Xの所属は営業担当部署である「ウェルスマネージメント本部」で肩書は課長とされた。

★ Xの賃金は、毎月15日締めの20日払いであり、毎月の給与は65万円、賞与は毎年6月と12月にそれぞれ105万円とされた。

★ XおよびN社作成の19年5月21日付雇用契約書(以下「本件雇用契約書」という)には、Xの業績やXが就業規則や雇用契約に違反する行為をした等の理由によっては賞与を支給しない場合もあると規定されている(3条1項)ほか、Xの報酬額については、Xの勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には本件雇用契約締結後6ヵ月を経過した後に見直すことがある(3条2項)と定めている。また、本件雇用契約書は、Xの試用期間を6ヵ月間としている(1条)。

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<本件解雇に至った経緯等について>

★ Xは19年5月21日から同年9月3日までN社にて勤務していたが、この期間のXの手数料収入は同年6月が63万8000円、7月は41万2000円、8月は11万4000円であり、3ヵ月間の平均額は38万8000円である。また、Xの預かり資産は、同年6月は2200万円、7月は3100万円、および8月は3800万円であった。

▼ Xは同年7月上旬以降、ウェルスマネージメント部長や営業担当役員Bから「社長からペースが遅いとの指摘が出ている」、「このままでは給料の見直しも考えざるを得ない」と言われたりしたが、N社からノルマや必達数字を示されたことはなかった。

▼ 同年7月、O証券はXに対し、「当社顧客への投資勧誘行為の停止要求について」と題する書面により、XがO証券の顧客に対して行っている投資勧誘の電話等は退職時の誓約に違反するので、これを停止するよう求めるとともに、繰り返される場合には損害賠償請求の提訴の用意がある旨通告した。そのため、XはO証券の顧客に遠慮しながら投資勧誘を行うことを余儀なくされた。

▼ 同年8月27日、XはA役員およびB役員から、成績不振が理由で解雇の方向に話が進んでいることを告げられた。これに対し、Xは営業開始後まだ3ヵ月であり、あまりにも性急であると訴え、せめて試用期間の6ヵ月の実績を見てほしいこと、自分の採用を決めた社長と直接面談したいことを申し入れた。

▼ 翌28日、XはA役員から、給与を65万円から25万円に減額した上であと1ヵ月だけ猶予か、それが嫌なら解雇を受諾すること、社長は面談しないことを告げられたところ、Xは給与減額の上1ヵ月の解雇猶予を選択した。

▼ 同月30日朝、XはA役員から月給を65万円から25万円へ変更する旨の給与変更合意書への署名を求められたが、署名捺印を断り、同日夜、同役員に対し、改めて試用期間残り3ヵ月について従前どおりの待遇を求めた。

▼ 同年9月3日、N社は「営業担当として採用したが、営業担当としての資質に欠けるので、就業規則19条2項(試用期間中に不適と認められるときの解雇)により解雇する」として、Xを同日付で解雇した(以下「本件解雇」という)。

▼ Xは顧客との連絡や説明の機会を確保するため、夕方まで時間がほしいとN社に願い出たが、同社はXに対して荷物を整理してすぐに出て行くようにと申し渡し、顧客への説明等は会社側で考えるというものであった。

★ N社はXに対し、同年9月分の賃金として38万4091円を支払い済みである。また、同社はXに対し、同年9月、解雇予告手当として66万5063円を支払った。

▼ 同年11月1日、XはI証券に入社し、証券外務員資格登録を行った。

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<N社の就業規則について>

★ N社の就業規則には、以下の規定がある。

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