#443 「甲学園事件」札幌地裁(再掲)
2017年8月23日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第443号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【甲学園事件・札幌地裁判決】(2014年12月12日)
▽ <主な争点>
入試ミスを理由とする教授に対する減給処分など
1.事件の概要は?
本件は、甲学園が設置する甲大学の2011年度一般入学試験等の入試委員会委員長であった教授Xが上記試験においていわゆる入試ミスがあったこと等を懲戒事由として、同学園から減給1割1月の懲戒処分を受けたことについて、甲学園に対し、同処分の無効確認を求めるとともに、減給された給与のうち、その後も支払を受けていない分の支払等を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<甲学園、Xおよび入試委員会について>
★ 甲学園は、教育基本法および学校教育法に従い、カトリックの精神に基づき学校教育を行うことを目的とする学校法人である。同学園は甲大学に学部として看護栄養学部、学科として看護学科および栄養学科を設置している。
★ Xは、甲学園と期限の定めのない雇用契約を締結し、甲大学に教授として勤務している者である。なお、Xは2010年4月から2012年3月まで甲大学の入試委員会委員長であった。
★ 入試委員会は、入試の問題作成、試験の実施、選考、合格発表等の入試に関わる事務全般を行う委員会であり、委員長はこれらの事務の総括責任者で1ヵ月1万2000円の役職手当のほか、入試月には5000円の手当が支給された。
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<本件ミスの発生、本件処分に至った経緯等について>
▼ 2011年2月に甲大学の2011年度の一般入試が実施されるにあたり、同大学における入試ミス防止のためのガイドラインが作成されていた。
▼ 同年11月21日、外部から甲大学に2011年一般入試における数学の問題の一部(以下「本件設問」という)に解答例の作成ミスがあるとの指摘があったところ、本件設問についての解答例は上記指摘のとおり誤りであった(以下「本件ミス」という)。
▼ Xは同月25日、甲大学の学長に対し、上記指摘により本件ミスが確認されたこと等を報告した。
★ 本件ミスにより、看護学科および栄養学科につき各1名を本来合格であるのに不合格としたことが判明し、甲大学は同年12月、上記2名を追加合格としたが、いずれも同大学に入学しなかった。
★ Xや甲大学事務局の担当者らは本件ミスについての対応や謝罪のため、追加合格者らの自宅、出身高校、進学先を訪問したりするとともに報告や謝罪のため、文部科学省に出向いたり、電話したりして、指導を受けるなどした。
★ 甲学園は追加合格者らに対し、謝罪するとともにそれぞれ慰謝料30万円を支払い、内1名の両親に対し、慰謝料20万円を支払った。
▼ Xは2012年2月、本件ミスについて、始末書を作成し、教授会において経緯を説明し、上記始末書を朗読して謝罪した。
▼ 甲学園は2013年3月13日、Xに対し、同学園の就業規則(以下「本件就業規則」という)57条1項2号により、減給1割1月の懲戒処分をした(以下「本件処分」という)。
★ 本件処分の懲戒事由は、Xが(1)2011年一般入試において、管理監督義務を怠り、甲学園に慰謝料等の金銭的な損失および本件ミスが広く受験関係者に広がったことで社会的な信用の毀損という損害を与えた、(2)2012年公募推薦入試において、ウェブ上での合格者の発表が遅延し、外部の入試関係者に対して多大な迷惑をかけ、甲学園の社会的な信用を毀損した、(3)本件ミスについて、学長への迅速な報告の義務を怠ったというものであり、いずれも本件就業規則56条所定の4号事由および5号事由に該当するとされた。
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<本件就業規則について>
★ 本件就業規則には、以下のような定めがある。
第56条(懲戒)
学園は、教職員が次の各号の一に該当する場合には、理事会で審議の上、懲戒を行うことができる。ただし、教員については、あらかじめ教授会の意見を聴かなければならない。
(4)職務上の義務に違反し、または職務を怠ったとき(以下「4号事由」という)
(5)故意または重大な過失により、学園に損害をもたらしたとき(以下「5号事由」という)
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