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#394 「東京医科歯科大学事件」東京地裁

2015年9月16日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第394号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【東京医科歯科大学(以下、T大学)事件・東京地裁判決】(2014年7月29日)

▽ <主な争点>
期間の定めのある助教の雇止めなど

1.事件の概要は?

本件は、T大学の助教として、期間を定めて雇用されていたところ、雇止め(本件雇止め)とされたXが本件雇止めに効力がないと主張し、地位確認と雇止め後の月例賃金および期末手当等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

★ Xは、平成16年4月、T大学の大学院医歯学総合研究科助手教育職に3年の期間を定めて採用され、その任用を19年4月および22年4月に更新された者である。なお、途中で地位の名称が助手から助教と変更された。

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<T大学における任期に関する規則、再任の可否等について>

★ T大学においては「教員の任期に関する規則」が定められており、再任の可否を決定するに際し、教育活動(教育業績)、研究活動(研究業績)、臨床活動およびその他大学の管理運営(運営管理)、地域社会への貢献等に関する事項(社会貢献)について業績審査を行うものとされている。

★ 再任の可否は、(1)被評価者本人が自己評価報告書等を作成し、(2)被評価者が所属する分野の責任者が総合的業績評価表を作成した上、(3)歯学系教育研究臨床評価委員会によって審議され、その後、歯学部教授会の審議を経て、最終的に学長によって決定される。

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<T大学における再任基準、本件雇止めに至った経緯等について>

▼ 22年2月、歯学系教授会および歯学部教授会は教員再任基準のうちの研究業績評価について、助教(基礎系)については3年以内の任期期間内に次の(1)および(2)の基準を同時に満たすことを再任基準と定めた(以下「本件基準」という)。

(1)インパクトファクター(注:自然科学・社会科学分野の学術雑誌を対象として、その雑誌の影響度、引用された頻度を測る指標)2.0以上の雑誌に2報以上発表する。ただし、そのうち1報は筆頭著者または責任著者とする。また、インパクトファクター5.0以上の雑誌に筆頭著者または責任著者として1報以上発表すればこの基準を満たしたこととする。
(2)その他の論文(共著可)を2報以上発表する。なお、特別な事情で条件を満たすことができなかった場合は再任申請にあたって、本人および分野長の理由書を提出することとされていた。

▼ 大学院医歯学総合研究科長・歯学部のA学部長および歯学系教育研究臨床評価委員会のB委員長はXに対し、24年9月、本件基準に係る資料および総合的業績評価の自己評価報告書等の提出を求めた。

▼ 同年11月、A学部長らはXに対し、本件基準(1)が満たされていないため、再任評価に係るヒアリングを実施した。

▼ 25年1月、A学部長らはXに対し、任期の更新を行わない旨を通知した(以下「本件雇止め」という)。その通知文書では、不再任の理由として「研究業績の評価」の中の1項目である「教員の研究課題到達目標への到達度」の評価結果が3点(6点以下の者は基準を満たさない)で、同じく「教員の研究課題の到達目標と研究計画に対する評価者の評価」の評価結果が「2箇所がD評価」(D評価があれば基準を満たさない)であることが挙げられていた。

▼ Xは同月、不再任の通知に対し異議を申し立てたところ、A学部長はXに対し、同年2月、文書で「貴殿は筆頭著者または責任著者としての論文を投稿した記録もみられないことから、研究業績不足と判断せざるを得ず、これはどのように斟酌しても覆るものではない」と通知した。

★ T大学の大学院医歯学総合研究科(歯学系)において同年3月に任期が終了する3年任期の助教で再任を希望した者は33名いたが、Xを含む3名が雇止めされた。なお、上記33名中、Xを含む16名は本件基準を満たしていなかったが、そのうち13名は任期更新された。

3.助教Xの主な言い分は?

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