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#111 「日本中央競馬会事件」東京地裁

2005年11月9日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第111号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【日本中央競馬会(以下、J法人)事件・東京地裁判決】(2005年1月28日)

▽ <主な争点>
在職中の行為について有罪判決を受けたことを理由とする退職手当の返納請求

1.事件の概要は?

本件は、J法人が在職中の行為について懲役刑の有罪判決を受けたことを理由に、すでに退職手当の支払いを受けていた元職員Xに対して、退職後約2年半経過した後、退職手当の返納を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<J法人およびXについて>

★ J法人は、競馬法により競馬を行う団体として設立された法人である。

★ Xは、昭和43年1月からJ法人に勤務し、平成12年9月に退職したが、10年2月から12年9月までの間、J法人の京都競馬場場長として、同法人理事長の命を受け、競馬場の管理、ファンサービス並びに収入および支出に関すること等、同競馬場の業務を掌理していた。

★ Yはカードシステム機器の開発・製造・仕入れ・販売および保守業務ならびにプリペイドカードの製作およびその発行業務等を目的とするN社の代表取締役である。

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<Xへの退職手当の支給および本件刑事事件について>

▼ J法人は12年9月、Xに対して、退職手当5666万5475円から源泉徴収に係る公租公課およびXの依頼でJ法人がXに代わって納付することとなった住民税138万3300円を控除した4841万7435円を支払い、14年7月、所得税として誤って控除した40円を更に支払った。

▼ 同年11月、XはYと共に日本中央競馬会法(以下「法」という)37条一項*違反の罪で逮捕・勾留され、同年12月、次の公訴事実等により起訴された(以下「本件刑事事件」という)。

☆ 公訴事実
Xは、J法人が管理運営する競馬場等に設置するオッズコピーサービス用端末機の導入および同端末機に使用するプリペイドカードの発注等に関し、N社が有利便宜な取り計らいを受けたことへの謝礼および今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、12年2月から同年8月の間、Yから計160万円の賄賂を3回に分けて、収受した。

* 法37条一項
「J法人の役員もしく職員または審査会の委員がその職務に関して、賄賂(わいろ)を収受し、またはこれを要求し、もしくは約束したときは、3年以下の懲役に処する。これによって不正の行為をし、または相当の行為をしなかったときは、5年以下の懲役に処する。」

▼ Xは15年2月に行われた公判において起訴事実を認め、同年3月、裁判官は公訴事実を犯罪事実として認定し、法37条一項前段を適用して、「(a)Xを懲役1年6月に処する、(b)この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する、(c)Xから160万円を追徴する」旨の主文を言い渡した(以下「本件刑事判決」という)。

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<J法人の退職手当支給規程等と本件返納請求について>

★ J法人職員退職手当支給規程(以下「本件支給規程」という)第8条の二(以下「本件返納規定」という)では、次のように定めている。

「退職した者に対し、退職手当を支給した後において、その者が在職中の行為に係る刑事事件に関し、禁固以上の刑に処せられたときは、その支給した退職手当の全部または一部を返納させることができる。」

★ 本件支給規程は人事関係内規集に収録されているところ、同内規集は管理職にのみ配布されていたが、一般職員も管理職に問い合わせれば、その内容を知ることができる状態にあった。

★ XはJ法人の管理職であり、人事関係内規集の配布を受けており、4年6月に本件返納規定が新設された際には、その追録の配布を受けていた。

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