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#101 「モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド事件」東京地裁(再掲)

2005年8月31日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第101号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド(以下、M社)事件・東京地裁決定】(2004年8月26日)

▽ <主な争点>
懲戒解雇の効力(個人的訴訟提起と会社のアカウントを利用した私用メール送信)

1.事件の概要は?

本件は、M社の従業員であったXが顧客・知人・マスメディア等に対し、M社のメールアカウントを使用して、個人的な訴訟を提起した旨を通知した。M社はXに対し、上記訴訟を取り下げるよう求める業務命令を発したが、Xがこれに従わなかったためになした懲戒解雇の効力が争われたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<M社およびXについて>

★ M社は有価証券の売買等を目的とする会社である。

★ Xは平成10年4月、M社に入社し、為替本部のエグゼクティブ・ディレクターとして、顧客である法人に対し、金融商品の販売等に従事していた。

★ Xの16年3月分および4月分の給与は、1ヵ月184万3,273円であった。

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<Xが懲戒解雇されるまでの経緯>

▼ 15年2月、日本公認会計士協会(以下「協会」という)は、Xの取り扱う金融商品について原則として会計処理上は投機目的と考える必要があることなどを内容とする監査上の留意点(以下「留意点」という)を発表した。

▼ Xは上記留意点の不当性を主張し、協会に対し、留意点の撤回を求めるなどしたが、協会はこれを拒否した。16年4月1日、Xは協会に対し、留意点によりXの営業活動が阻害され、経済的損害および精神的苦痛を受けたとして、慰謝料等の支払いを求める訴訟(以下「別件訴訟」という)を提起した。

▼ 同日、Xは仕事上および個人的付き合いを通じて知り合った顧客・知人・友人・マスメディア等67名に対し、M社のメールアカウントを使用して、別件訴訟を提起した旨を通知した。

▼ 同月7日、M社はXに対し、別件訴訟を提起する前に直属の上司または法務部に相談することを怠ったとして、譴責処分を行った。さらに同月21日、M社はXに対し、別件訴訟を取り下げるよう求める業務命令を発した。

▼ 同月23日、XはM社に対し、上記業務命令には従わない旨の通知をし、また上記譴責処分の無効確認を求める訴訟を提起した。

▼ 同月26日、M社はXに対し、同日をもって懲戒解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

▼ 本件解雇の理由は、(a)XがM社に通知することなく、別件訴訟を提起し、M社からの撤回指示にも従わず、訴訟を取り下げないことを明確にするなどの行動により、M社との信頼関係を著しく損ない、同社の秩序規律を乱したこと、(b)Xが別件訴訟についてM社の設備を使用し顧客に喧伝し、M社の信用を毀損したことが、就業規則および従業員行為規範に違反するというものであった。

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<M社の就業規則および従業員行為規範について>

★ M社の就業規則には以下のような定めがある。

第41条(懲戒)
会社は、社員が本就業規則、業務方法書および従業員行為規範を含むその他の会社の諸規則に違反し、または不正直な行動をなし、犯罪を犯し、会社の記録を偽造・変造し、故意に会社の財産を毀損し、秘密情報を不法に漏らし、または会社の社員に期待される行動基準にもとって行動したときは違反行為の程度に応じ、次のとおり懲戒を行う。(以下略)

★ M社の従業員行為規範には以下のような内容の定めがある。

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