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#272 「東京地下鉄事件」東京地裁

2010年11月10日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第272号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【東京地下鉄(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2010年3月26日)

▽ <主な争点>
10回にわたり更新されてきた駅ホーム整理アルバイトの雇用契約等

1.事件の概要は?

本件は、T社と期間の定めのある雇用契約を締結して労務を提供していたXが同社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金請求権に基づいて、未払い賃金の支払いを求めたもの。

なお、Xは駅においてホーム整理業務に従事し、2ヵ月ないし6ヵ月の期間の雇用契約を10回にわたり更新していた。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社、Xおよび本件契約等について>

★ T社は、旅客鉄道事業等を目的とする会社である。

★ X(アルバイト従業員)とT社は、平成18年3月、以下の内容の「パートタイマー労働契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という)により雇用契約を締結した。

(1)パートタイマー就業規則によりパートタイマーとして雇用する(1条)。
(2)雇用期間 18年3月27日から同年9月26日まで(2条)
(3)業務内容 駅旅客整理業務全般/就業場所 半蔵門駅(2条)
(4)賃金の支給 時間給1200円、毎月末日締め、翌月25日払い(3条)
(5)更新については次のとおりとする(7条)
・更新の有無 更新することがある。
・更新の限度 19年3月26日までとする。
・更新する判断基準 満了時の業務量および以後の業務量の見通しおよびXの業務に対する適性(勤務成績、勤務態度、健康状態、能力)
・更新の際の取扱い 上記基準により次期の更新の有無および勤務内容、労働条件、賃金等の雇用条件を決定し、期間満了の1週間前までに通知する。ただし、更新に際し、賃金の増減等雇用条件を変更することがある。
・更新上の注意 契約期間満了時の業務量および以後の業務量の見通しがある場合においても、Xの業務に対する適性が十分でないとT社が判断した場合は、更新を行わない。この場合、同社は期間満了の1週間前にXに通知する。

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<本件契約の更新、本件雇止めに至った経緯等について>

★ T社のパートタイマー就業規則には、「パートタイマーとは、一時的、補完的業務に期間をかぎって短期間雇用する者で、1週間の所定労働時間が社員の1週間の所定労働時間より短い者をいう(2条)、パートタイマーの雇用期間は、1年以内とする(7条)」などの規定がある。

★ 本件契約は、本件契約書と同様の書面により、以下のとおり、10回にわたり更新された。
(1)18年3月27日から20年3月26日まで6ヵ月ごと4回更新
(2)20年3月27日から21年3月26日まで2ヵ月ごと6回更新
(3)更新時の更新の限度は、18年9月27日以降、21年3月26日(以下「本件期間満了日」という)までとされた。

▼ T社は19年5月7日、Xに対し、本件契約が終了した旨告げ、Xの就労を拒否したものの、その後の話し合いにより、同月21日、Xの就労を再開させた。その際、同社は雇用期間を同日から同年11月20日までとする本件契約書の作成による雇用契約の締結を行い、本件契約が継続して更新されていれば付与されるべき10日間の年休を付与せず、5日間しか年休を認めず、本来であれば勤務できた同年5月7日から同月18日までの10日間の給与を支払わなかった(以下「本件中間紛争」という)。

▼ Xは本件中間紛争に関し、T社に対し、19年3月26日経過後においても本件契約が間断なく更新され、それを前提とする年休計算がなされるよう是正を求め、同社が就労を拒否していた期間の賃金の支払い等を求めるため、同年12月に東京都労働相談情報センターに相談をしたところ、20年2月以降、同センターにおいて斡旋が行われ、XとT社との間に同年4月9日、本件中間紛争に関する和解(以下「本件中間和解」という)が成立し、同社は同日時点で18年3月27日から有期雇用契約が間断なく更新されているように改めた。

▼ T社は21年1月26日、Xに対し、本件期間満了日以降本件契約の更新を行わない旨説明した。同社はXに対し、本件契約の更新を行わない理由として、以下の点を指摘した。

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