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#252 「江崎グリコ事件」秋田地裁

2010年2月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第252号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【江崎グリコ(以下、G社)事件・秋田地裁決定】(2009年7月16日)

▽ <主な争点>
人員削減による雇止めと企業経営上の必要性等

1.事件の概要は?

本件は、G社において、担当する各店舗を訪問して営業活動を行うストアセールスに従事していたAら3名が企業経営上の理由による雇止めが無効であると主張して、同社に対し、雇用契約上の地位保全および賃金仮払いの仮処分を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<G社およびAら3名について>

★ G社は、菓子、食料品の製造および売買等を目的とする会社である。

★ Aは平成5年12月に、Bは11年6月に、Cは16年5月にそれぞれG社に営業担当従業員として採用され、以来1年ごとに契約を更新してきた。なお、AらはG社の秋田事務所において、担当する各店舗を訪問してG社商品について営業活動を行うストアセールスという職務に従事していた。

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<AらとG社との間の雇用契約等について>

★ Aらを含むストアセールスは転勤がないことを前提に、G社と1年以内の有期の雇用契約を締結しており、業務内容は自宅近くの駐車場から同社が貸与した社有車で営業担当先の各店舗に直行し、同社商品の宣伝・商談、什器の設置・補充、商品の陳列方法の提案等の営業活動を行い、各店舗から自宅に直行するというものであった。

★ 20年当初のG社の秋田県内におけるストアセールスは、いずれも秋田市内に居住するAら3名のほか、主として県北部を担当するDおよび主として県南部を担当するEの合計5名であった。

★ AらはいずれもG社との間で原則として1年間の雇用契約を締結してきたが、19年までは同社との間で具体的な話し合いが持たれることもなく、当然のように毎年5月に雇用契約が更新されており、ストアセールスについて契約期間の満了を理由として雇用契約が更新されないという前例はほとんどなかった。
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<G社の経営状況とストアセールスの業務の実態調査等について>

▼ G社の単独決算における売上高は、平成5年度当時は1679億円余りを計上していたが、以後年々減少傾向になり、20年度には1375億円余りとなっており、同年度には過去15年間で初めて営業損失(3億4600万円)を計上するに至った。

▼ G社の経営状況等を反映して、同社においては20年1月および2月の総括支店長会議において、ストアセールス等の営業職の業務内容の再整理を行い、効率的な営業体制の構築を目指すことなどが決定された。

▼ 同じ頃、G社の東北管内のストアセールスについて業務の実態調査が行われ、各ストアセールスの仕事量を客観的に表す指標として、営業担当先として訪問すべき店舗数、各店舗における同社商品の売上げ、各店舗において活動可能な業務内容等に基づいて「標準コール数」という数字が算出された。

▼ その結果、ストアセールス1人当たりの「標準コール数」は、青森県が93.9(4名)、岩手県が100.3(4名)、福島県が82.9(5名)であったのに対し、秋田県においては、それぞれAが57.5、Bが88.5、Cが63.5、Dが29.8、Eが80.0(以上の平均値63.9)であった。

▼ 秋田県におけるストアセールスの「標準コール数」が4名でもまかなうことができる仕事量しかないという結果が出たことを受けて、G社の菓子東北総括支店長は同年2月下旬、Aら3名、DおよびEに対し、秋田県は他県と比べて「標準コール数」が少ないため、同年5月10日の雇用契約の更新時期に従前のように契約を更新できるか分からない旨を告げた。

▼ 同年4月頃、G社は秋田事務所の正社員らに対し、Aらに割り当てるための新たな訪問先や業務を探すよう指示し、新たな訪問先としてパチンコ店等、新たな業務として試食等の店頭推奨販売活動等の発掘をそれぞれ試みたが、新たな訪問先や業務を安定的に確保することはできなかった。

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<本件雇止めに至った経緯等について>

▼ G社は同月、Aらに対し、契約期間が満了する同年5月10日をもって契約の更新を行わないこと、代わりに新たに2名のストアセールスを募集する方針であるが、Aらがこれに応募することも可能である旨を通告した。

▼ これを受けて、Aらから、3名の中から2名を選んでほしい旨の要望が出されたため、G社は上記方針を改め、同年5月11日から半年間、Aらの雇用契約を更新し、その間にAらについて客観的な人事評価を行った上で、3名のうちから雇用を継続する2名を選定することにし、Aらに対してその方針が告げられた。

▼ その後、AらとG社との間で雇用の打ち切りについて交渉が行われ、県労働委員会の勧めにより、雇用契約は同年11月11日から12月10日まで更新されたが、同社はAらに対し、同日をもってAらとの間の雇用契約を更新せず、雇用関係を終了させる旨通告した(以下「本件雇止め」という)。

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