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#314 「日本電信電話事件」東京地裁

2012年7月4日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第314号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日本電信電話(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2011年2月9日)

▽ <主な争点>
転籍命令の効力、転籍元企業での定年後再雇用など

1.事件の概要は?

本件は、N社の従業員であったXが同社の再編によりNTT東日本(以下、H社)への転籍命令の発令を受けたが同意せずにH社で就労し続けた後、N社およびH社の定年年齢に達したので、N社の定年後の再雇用制度(キャリアスタッフ制度)により再雇用されたと主張して、N社に対し、主位的請求として労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等、予備的請求として無効な転籍命令を発し復籍要求を無視し続けたことによる損害賠償等を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびX等について>

★ N社は、電気通信事業を営むH社およびNTT西日本ならびにNTTコミュニケーションズがそれぞれ発行する株式の総数を保有する持ち株会社である。なお、平成11年7月、N社は再編成により、H社、NTT西日本、NTTコミュニケーションズおよびN社の4社に分割された。

★ Xは、昭和40年4月、日本電信電話公社に雇用された後、昭和60年、同公社の民営化に伴うN社の発足により、労働契約が承継され、同社の従業員となった。その後、Xは平成19年3月31日をもって、N社およびH社の定年年齢に達した。

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<本件転籍命令、転籍の拒否等について>

▼ N社は同社の再編に先立つ11年3月、「再編成に伴う社員の人員移行等の扱いについて」と題する通達を発し、全社員に周知した。また、同社は同年4月、再編成に当たって人事上の手続として転籍の発令が行われること、転籍等について疑問質問があれば、一定の期間中に申し出ることなどを周知し、その後も全社員に対し、幾度となく転籍について説明をした。

▼ N社はXに対しても、同様に再編成の概要や地域会社への移行形態、労働条件について周知説明を行い、同年6月、H社への転籍を発令した(以下「本件転籍命令」という)。しかし、Xは本件転籍命令に同意しておらず、XとN社の労働契約は存続していた。

▼ 同年7月以降、Xは転籍後のH社の職場となったそれまでの職場に赴き、同社の業務を上司の指示の下で遂行した。また、XはH社から提出するように指示された自己申告表、業績目標設定表等を同社に提出し、同社から労働の対価である賃金、賞与を受け取り、退職金も受領した。

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<N社の定年後再雇用制度、H社の雇用形態選択制度等について>

★ N社就業規則80条2項は「会社の指定する業務、勤務場所において勤務可能で、健康に問題がない者については、前項に定める定年退職日の翌日にキャリアスタッフとして、最長満65歳に達した日以後の最初の3月31日まで雇用される」と定めている。

★ N社においては、定年後再雇用制度(以下「キャリアスタッフ制度」といい、この制度に基づいて定年後期間を定めて労働契約を締結した従業員を「キャリアスタッフ」という)が存在する。

★ 14年5月、H社は同社を定年退職する、または同社から転籍し転籍先で定年退職する社員について、定年退職後に期間を定めて雇用する制度に代わり、50歳時点で(1)そのままの労働条件で雇用を継続するが、60歳以降の雇用を継続しないコース(以下「60歳満了型」という)、(2)H社を一旦退職してグループ会社に再就職し、50歳時点での賃金がこれまでの70%または80%の水準に低下するものの、契約社員として最長65歳までの1年契約の雇用契約を更新することにより、雇用を継続するコース(以下「繰延型」という)のいずれかを選択する雇用形態選択制度を設けた。

▼ Xは雇用形態選択を行うことになった際、H社に対する「雇用形態選択通知書」に「N社へ直ちに復籍させ、民法第625条(使用者の権利の譲渡の制限等)違反状態を解消してください」と付記し、60歳満了型の選択欄に丸印をつけて提出した。そのため、XはH社において、60歳満了型を選択したものとして取り扱われた。

▼ 15年1月、Xは「雇用形態選択通知書」の再提出を求められたが、「会社分割の際、N社からH社への転籍に同意しておりません」とし、60歳満了型にも繰延型にも応じられない旨記載した通知書を提出して、これに応じなかった。

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