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#480 「ニチネン事件」東京地裁(再々掲)

2019年2月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第480号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【ニチネン(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2018年2月28日)

▽ <主な争点>
自由な意思に基づく同意の存在と賃金減額など

1.事件の概要は?

本件は、XがN社との間で雇用契約を締結し、同社において就労していたところ、平成27年2月末支給分の給与から賃金を減額され(本件賃金減額)、同年7月20日にN社を退職したことについて、同社に対し、(1)XはN社から退職(解雇)か給与半減かの二者択一を迫られ、本件賃金減額に同意せざるを得なかったものであり、Xの同意はその自由な意思に基づいてされたものでなく、本件賃金減額は無効であるなどと主張して、雇用契約に基づき、同年2月給与から7月給与までの各給与における未払賃金の合計152万2040円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、(2)本件賃金減額およびその後Xの賃金を増額するなどしなかったN社の一連の行為は退職強要に該当し、退職強要がなければ、少なくとも同年10月20日まで同社において就労し、その間の給与を得ることができたなどと主張して、不法行為に基づき、上記期間の賃金相当額(逸失利益)と弁護士費用相当額の合計161万2926円およびこれに対する遅延損害金の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社およびXについて>

★ N社は、アルコール類および脂肪族炭化水素類を主剤とする各種燃料、高圧ガス保安法に基づく各種コンロ、ボンベの製造、販売等を目的とする会社である。

★ Xは、N社との間で「年俸600万円(月額50万円)」とする雇用契約を締結し、26年10月14日から同社の営業所において就労していたが、27年7月20日に退職した者である。なお、Xは他の中途採用の営業職員よりも高額の賃金が定められていた。

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<本件賃金減額、Xが退職に至った経緯等について>

▼ N社の営業統括室長Aは26年11月14日、Xの業績が上がっておらず、営業先の訪問件数も少なかったため、Xと面談を行い、営業活動計画をまとめるように指示するなどした。さらにA室長は営業所長を交えてXと面談を行い、営業先の訪問件数増やすといった営業活動の改善を求めた。

★ 26年10月14日から27年1月31日までのXの商品(ガスヒーター、ボンベ等)の売上額は、合計6万4740円にとどまった。

▼ A室長は27年2月2日、Xとの面談の中で、Xの業績が全く上がっておらず、このままでは雇用を継続することができないため、退職してもらうか、現在の業績に見合った給与として現在の半額の給与とするかという対応をとらざるを得ない旨を伝え、給与を減額してでもN社において就労を続ける意思があるのかを尋ねるなどした。

▼ 同月16日、XはN社のB社長と面談を行い、同社においてもう一度頑張りたい旨を伝え、B社長もこれを了承した。同社は同月末支給分の給与から、他の中途採用の営業職員の賃金水準に合わせる形で、Xの賃金を半額の月額25万円に減額した(以下「本件賃金減額」という)。しかし、その後もXの営業先の訪問件数や売上げが顕著に増加することはなく、Xの賃金が増額されることもなかった。

▼ Xは同年6月20日、N社に対し、一身上の都合により7月20日をもって退職したい旨の退職届を提出し、同日付で退職した。

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