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#355 「トムス事件」札幌地裁(再掲)

2014年2月19日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第355号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【トムス(以下、T社)事件・札幌地裁判決】(2012年2月20日)

▽ <主な争点>
経営合理化の必要性に基づく事業の縮小・休止等による解雇など

1.事件の概要は?

本件は、事業の一部廃止、縮小等を理由にT社から解雇されたXが同社に対し、解雇の無効を主張して、(1)労働契約上の権利を有することの確認、(2)労働審判に対する異議申立て後に訴状に代わる準備書面を提出した平成23年3月までに支払われるべきであった給与・賞与等、同月から判決確定までの給与等の支払い、(3)訴状に代わる準備書面を提出した平成23年から判決確定までの年2回の定期賞与等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、無地衣料および無地の衣料にオリジナルのデザインをプリントする加工衣料の製造、企画および販売を業とする会社であり、東京都内に本社を置くほか、国内では札幌、仙台、埼玉、名古屋、大阪、広島および沖縄に支店を置いている。

★ Xは、平成18年3月、T社との間で「雇用期間:定めなし、就業場所:札幌支店、業務内容:営業事務職」とする雇用契約を締結し、仙台支店で研修を受けた後の同年4月から札幌支店での勤務を開始した者である。

★ T社における営業事務職は同社の商材である無地衣料および加工衣料を顧客に販売する営業職社員のサポートをすべく、営業所内で顧客管理および金銭管理等の事務処理を担当する一般職採用の社員である。

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<本件解雇に至った経緯等について>

▼ T社は平成22年1月、経営合理化の方策の一つとして、愛知県春日井市に「コンタクトセンター」と称する部署を設置し、ここに全国の無地衣料に関する業務を集約するとともに業務を外部委託することによって効率化を図ることとし、同年3月に同センターの稼働を始めた後、同年9月までに新宿支店、横浜支店および京都支店を順次閉鎖し、これらの支店の無地衣料に関する業務を同センターに移管し、加工衣料に関する業務を東京本社ないし大阪支店に移管した。

▼ T社の営業本部長のAは22年9月、札幌支店にてXと面談し、支店業務の統廃合に伴い同支店の営業事務職がなくなるので、会社都合で退職するか、東京本社に転勤とならざるを得ない旨を話した。

▼ Xは同年10月、T社代表取締役宛内容証明郵便において、「東京勤務を命じられたが、勤務地限定採用社員であることから、命令を受けることができない」旨回答した。

★ 「勤務地限定採用社員」というのは、XがT社に雇用された後に改訂された就業規則に初めて記載された、異動を予定しない社員であり、Xが同社と交わした雇用契約書には、Xが勤務地限定採用社員である旨の記載はなかったが、これについては上記面談の際、A本部長がXから「私って地域限定採用の社員ですよね」と尋ねられて、「そうです」と答えたことがあった。

▼ T社の営業本部を管掌する取締役であるBは同年10月、札幌支店にてXと面談し、会社の経営判断として同支店の営業事務職をなくすことにしたので、Xには東京本社に来てもらうか、退職してもらうしかない旨を述べた。

▼ Bは同年11月1日、札幌支店にて再びXと面談し、XがT社と交わした雇用契約書にXが勤務地限定採用社員であるとの記載がなく、実態としても同社に勤務地限定採用社員はいない旨のほか、退職する場合の退職金等の条件を提示し、さらに転勤が業務命令となり、拒めば解雇ともなり得る旨を述べた。

▼ Xは同月5日に差し出したT社代表取締役宛内容証明郵便において、A本部長とB取締役からの退職の話が退職勧奨であるとした上で退職勧奨に応ずる意思がなく、また配転命令は解雇を目的としたもので違法である旨を回答した。

▼ T社はXに対し、同月17日、「23年1月1日付をもって東京本社への転勤を命ずる」旨の辞令を発し、さらに同月19日、その前日に札幌支店のリーダーであるCから業務の引継を命じられたXが逆上して小口用金庫を投げ付け、Cのパソコンを破損させたとの理由で自宅待機を命じた。

▼ Xは同月22日、札幌地方裁判所に対し、配転命令の無効確認等を求める労働審判を申し立てた。

▼ T社は同月26日に差し出したX宛内容証明郵便をもって、Xに対し、事業の縮小によって就労の必要がなくなったこと等を理由として、就業規則第56条1項、第73条1項、第74条2項に基づき、同月30日をもって解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

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<T社の就業規則の定めについて>

★ T社の就業規則には、以下の定めがある。

第56条(事業の縮小・休止等による解雇)
会社は、天災事変その他のやむを得ない事情によって事業の全部または一部の廃止・縮小、休止などが不可避となり、就労の必要がなくなったときは社員を解雇することがある。
 前項の場合、会社は解雇を回避するために十分な努力をし、解雇が回避できないときは社員に対し、その理由、経緯等を説明することとする。

第73条(制裁の程度-2)
社員が次に該当する行為をしたときは、その程度により、前条に定める処分(注:譴責、減給、出勤停止または降格の処分)のほか、諭旨退職または懲戒解雇の処分を行う。
(2)数次にわたって業務上の指示命令を受けても、正当な理由なくこれに従わないとき

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