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#162 「日本科学協会事件」東京地裁(再掲)

2006年11月22日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第162号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日本科学協会(以下、N法人)事件・東京地裁判決】(2006年6月2日)

▽ <主な争点>
60歳を超えた職員に対する特別手当(賞与)の引き下げ

1.事件の概要は?

本件は、N法人の総務部長であったXが同法人からの退職勧奨に応じなかったことから、その報復として平成14年以降の特別手当(賞与)につき、支給額の差別的取扱いを受けたとして、債務不履行または不法行為に基づいて、同年末から16年末までの賞与支給額と本来支給されるべき額との差額とする合計577万9000円の損害賠償金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<N法人およびXについて>

★ N法人は、内外の科学者・技術者ならびに科学・技術に関心のある者相互の協力と親善を図り、科学の研究を奨励し、技術の開発を促進し、広く一般にその成果を伝達して、科学教育と一般文化との発展に寄与することにより、世界平和と国利民福を図ることを目的とする財団法人である。

★ Xは昭和49年2月から全国モーターボート競走会連合会に雇用されていたが、63年12月に退職後、64年1月以降、N法人に雇用され、平成4年10月、業務部長、9年10月には総務部長となり、15年6月以降は企画室長の職にある者である。

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<N法人のXに対する退職勧奨の経緯等>

▼ 13年8月、N法人はXに対し、満60歳に達した日の属する年度末に退職し、嘱託となるよう退職を勧奨したが、Xはこれを拒絶した。

▼ 同年11月および12月、N法人は全職員を対象に就業規則変更説明会を開催し、定年年齢を65歳から60歳とすることにつき同意を求めたが、Xはこれを拒絶した。

▼ 14年1月、N法人は理事会の打ち合わせの席上で、定年を65歳から60歳に改める就業規則変更の議案を提示したのに対し、Xは同年2月までにN法人に対し、上記就業規則変更に同意しない旨の書面を送付した。

▼ 同年2月、N法人がXに対し、同年4月以降、一年更新の嘱託となる意思の有無を確認したところ、Xはその意思のないことを回答した。

▼ 同月、N法人はXに対し、同年3月末退職時の所定の退職金に、定年まで在籍したときに得られる退職金の差額1013万2000円を増額支給するので退職するよう説明したが、Xはこれに同意できない旨回答した。

▼ 同年3月、N法人はXを総務部長職から解き、総務課参事職とする旨の稟議書をXに提示したが、Xがその理由の説明を求めたところ、同稟議書は後日撤回された。

▼ 14年5月、N法人は全職員らに説明の上、理事会において、職員給与規程を変更し、役付職員の役職定年については、会長が別に定めることができることとし、また、職員退職手当支給規程を変更し、満61歳以降の退職金を減額することなどを決定した。

★ N法人の職員給与規程によれば、特別手当(賞与)は、毎年、夏季、年末および年度末に予算の範囲内で別に定める額を支給し、その支給細目は会長が別に定めるものとされている。

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<N法人の財政状況等について>

★ N法人は日本財団の関連団体であり、年間収入の約9割を日本財団からの助成金が占めているが、日本財団の競艇による収益金が近時激減し、そのため公益事業に対する助成金も減少が見込まれ、N法人も経費の見直しを強いられていた。

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