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#291 「学校法人 田中千代学園事件」東京地裁

2011年8月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第291号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 参考条文

★ 公益通報者保護法(以下「公通保護法」という)
第2条第3項
この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実

 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

第3条
公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

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■ 【学校法人 田中千代学園(以下、T法人)事件・東京地裁判決】(2011年1月28日)

▽ <主な争点>
内部告発を理由とする懲戒解雇の効力等

1.事件の概要は?

本件は、T法人の事務職員であったXが全国的に週刊誌を発行するマスコミの記者に対して、同法人内部の情報を提供し、これが週刊誌に記事(以下「本件記事」という)として掲載され発刊されたことを受けてなされた懲戒解雇は無効であるとして、T法人に対し、雇用契約に基づき、上記懲戒解雇時から定年退職時までの未払い賃金(役職手当を含む)等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T法人およびX、両者間の雇用契約等について>

★ T法人は、東京田中千代服飾専門学校(以下「専門学校」という)および東京田中短期大学(以下「短大」という)を開設する学校法人である。

★ Xは、昭和46年に当時の文部省に入省し、平成17年3月末に定年退職するまで国立大学において学務事務等の職務に携わっていた者である。

★ Xは平成17年4月、T法人との間で嘱託職員として「雇用期間:18年3月31日まで、基本給月額:30万円」の約定で雇用契約を締結し、短大の学務課長として勤務を開始した。その後、Xは18年4月に上記契約を更新し、同年11月より専門学校の総務課長に配置換えとなり、庶務、会計、学務事務等を担当していた。

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<本件懲戒解雇に至った経緯、解雇事由等について>

▼ Xは19年4月、T法人との間で「基本給:月額33万円、役付手当:1万1000円」の約定で雇用契約(以下「本件雇用契約」という)を締結し、同法人総務部総務課長として採用され、併せて専門学校総務課長の兼務を命じられた。

★ 本件雇用契約はXを専任職員として雇用するものであるとした場合、T法人の就業規則および同法人専任教職員の定年制に関する規程(以下「定年規程」という)が適用され、Xは定年規程4条により「22年3月31日」をもって定年退職となる。

▼ T法人は21年2月、Xに対し、同年3月3日をもって雇い止めとする旨を通知する一方、同年4月1日、同法人総務部総務課長および専門学校総務課長の兼務を免じ、当分の間、事務局付(特命事項担当)を命じるとともに、「基本給:月額18万円、役付手当:なし」とする給与発令を行った。

▼ これに対し、Xは上記の解職および減給処分は人事権の濫用に当たり無効であるとして、労働審判を申し立てたところ、同年6月、T法人はXを懲戒解雇にする旨の意思表示を行い(以下「本件懲戒解雇」という)、懲戒解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という)を交付した。

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