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#244 「T社事件」甲府地裁

2009年10月14日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第244号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【T社事件・甲府地裁判決】(2009年3月17日)

▽ <主な争点>
社有車を子どもの保育園への送迎に使用していたこと等を理由とする解雇の効力

1.事件の概要は?

本件は、社有車を子どもの保育園への送迎に使用していたこと、および約束以外の早退が多い等14項目にわたる言動を理由に解雇されたXが、T社が主張する解雇理由はなく、仮に解雇理由があるとしても相当性を欠き、解雇権を濫用したものであるから無効であると主張して、同社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認ならびに賃金等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は、労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律に基づく労働者派遣事業等を目的とした会社である。

★ Xは、T社に平成17年1月5日、営業職として期限の定めなく雇用された従業員であり、同社の山梨営業所(以下「本件営業所」という)に配属された者である。

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<本件解雇等について>

▼ T社は19年8月、Xに対し、就業規則(以下「本件就業規則」という)27条1項(1)、(2)、(3)号に基づき、同日をもって解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

★ T社がXに交付した解雇通知書の解雇理由には、解雇理由とする各事実の記載のほか、「以上、社員就業規則第12条違反、および第27条1項により解雇する。」との記載があるのみで、各事実がそれぞれ本件就業規則27条1項のうちのいかなる条項に当たるのかについては何ら記載がなかった。

[上記解雇通知書の各解雇理由]
(1)特定した営業先に毎朝直接訪問し、朝の出社はほとんどない。朝、社に出社しないということは秩序を乱すため、朝は出社するように何度か指導したが、指導後3ヵ月経っても改善されない。
(2)毎日、同じ取引先を2、3社回っているのみで、新規としての営業活動がまったくない。そのため、新規営業活動をするよう指導するが、「いただいている給料以上の仕事はやりたくない」と非常識な反論で改善なし。
(3)「決算書をみるとやっていられない」との非常識な発言。そんな考え方は良くないと指導しても、仕事に対しての考え方を改める姿勢なし。
(4)毎日同じ業務内容が多く、責任者として社員の行動を把握し、指導を行いたいため、1週間の同行を求めたが正当な理由がなく拒否。
(5)営業活動などに色々と指揮命令されるとやる気をなくす。「自分は自分のやり方でやらせてもらう」と指揮命令にしたがう姿勢がなく、服務規律に反する行動に改善が見込めない。
(6)責任者に対し、社内で脅迫的な言動を好ましくない態度で発し、風紀、秩序を乱す行為。
(7)同僚とのコミュニケーションがとれず、信頼関係が築けない。また、自己中心的で、同僚との協調性がない。
(8)会社の備品(ノート型パソコン)で、油性マジックで「ワープロ」と書き込む器物破損行為。
(9)社有車を許可なく、仕事以外で会社、仕事以外の者を同乗させている誓約違反行為。
(10)社有車を乱暴に扱い、車体を変形させてしまう器物破損、誓約違反行為。
(11)会社内の備品を乱暴に扱う。
(12)勤務時間中の社内において、職務に専念せずに、私物ポスターや業務に関係のない雑貨サンプルを作成し、会社のパソコン、コピー機を使用する職務違反行為。
(13)約束以外の早退が多く、社内業務、作業能率に影響があり、報告、連絡、相談等が円滑に行えない。
(14)担当先の派遣スタッフより、横柄な態度、相談をしても、何かにつけ怒られてしまうため、相談ができない。取引先の責任者も好ましくない態度と感じている。また、別の担当先派遣スタッフからは再三にわたり、連絡が取りたいと訪問、連絡があるが、不熱心な対応でいずれも、会社の信用を傷つける。

以上、社員就業規則第12条違反、および第27条1項により解雇とする。

▼ T社は本件解雇に伴い、解雇予告手当として29万8380円を振り込み送金した。

▼ Xは同年9月、当庁に対し、本件仮処分の申立てを行い、20年1月、XがT社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることおよび賃金の仮払いを命ずる旨の仮処分決定がなされた(以下「本件仮処分決定」という)。

▼ T社は本件仮処分決定に基づき、賃金の仮払いには応じているものの、Xの復職、就労を拒否している。

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<本件就業規則の規定について>

★ 本件就業規則における解雇等に関する規定は、以下のとおりである。

第12条 従業員は関係法令を遵守し、上司の指示命令にしたがい、誠実に職務を遂行して業務の正常な運営を図るとともに、職場秩序の保持に努めなければならない。

第13条 従業員は次の事項を守らなければならない。
(2)勤務についての手続、届出もしくは報告を怠り、または虚偽の報告等をしてはならないこと。
(5)勤務時間中は、職務に専念し、みだりに勤務の場所を離れないこと。
(8)許可なく、職務以外の目的で会社および取引先会社等の施設、車輌、機械器具、工作物、物品等を使用しないこと。
(9)職場秩序を乱すような行為をしないこと。
(10)業務に関連して自らの利益を図り、または会社の金品を私用に供し、あるいは、他より不当に金品を借用し贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
(14)その他、会社の内外を問わず、会社の名誉または信用を傷つける行為をしないこと。

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