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#89 「東海旅客鉄道事件」東京地裁(再掲)

2005年6月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第89号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【東海旅客鉄道(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2004年5月13日)

▽ <主な争点>
配置転換命令の効力/損害賠償等(列車監視義務の懈怠による日勤勤務および配転)

1.事件の概要は?

新幹線の車掌業務に従事していたXは列車監視義務を怠ったとして、T社から日勤勤務を命じられた上、東京予約サービスセンターへの配置転換を命じられた。

本件は、Xが上記配転命令は無効であるとして、同センターに就労する義務がないことの確認を求めるとともに、日勤勤務および配転を命じたことが不法行為に当たるとして、損害賠償等を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびT社について>

★ Xは国鉄に採用された後、昭和62年のT社設立に伴い、T社に雇用された者であり、平成14年5月当時、新幹線鉄道事業本部東京第二運輸所(以下「東京第二運輸所」という)に所属し、新幹線の車掌業務に従事していた。

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<本件事象の発生と発覚>

▼ 14年5月14日、Xは東海道新幹線「ひかり号」(以下「本件列車」または「自列車」ともいう)に車掌として乗務し、後部運転室において車掌業務に従事していたところ、本件列車が名古屋駅に停車した後、「のぞみ号」(以下「先発列車」ともいう)が隣のホームに入るのを見て、自列車に背を向けて、ホームの反対側まで歩いて行き、ホームに出た「のぞみ号」の車掌Aに対して話しかけ、その後、先発列車が発車し、しばらく走行するまで、同列車およびその前方のホームを見ていた。

▼ Xが反対側のホームにいる間、本件列車の後部運転室出入戸は開いた状態で、施錠されていなかった(以下、上記一連の事実関係を「本件事象」という)。

★ T社においては、規程等により、新幹線に乗務する後部車掌に対し、「自己が乗務する列車について、ホームに停車中も旅客の乗降と列車の状態を監視すべきこと」を義務づけている。また、T社の新幹線指導要領は、「乗務員が運転室を離れるときは出入戸を施錠すべき」旨を定めている。

▼ 出張のため先発列車に乗車していたT社の総合企画本部経営管理部のB係長は名古屋駅で降車した際、本件事象を目撃した。B係長は出張先から東京第二運輸所に電話をし、C助役に本件事象を報告した。なお、B係長はXとは当時互いに面識がなく、目撃した乗務員(X)が誰であるかは知らなかった。

▼ 東京第二運輸所が調査したところ、本件列車に車掌として乗務していたのはXであったことが判明した。同日、C助役は乗務を終えたXに対し、事実関係を確認したところ、Xは自列車を離れ、先発列車のA車掌のところへ行って話しかけたことを認めた上、先発列車の監視を行った自らの行為に誤りはなかった旨主張した。

▼ 東京第二運輸所のD所長は、本件事象についてさらに詳しい状況とXの列車監視に対する認識を確認するため、翌日以降のXの勤務を日勤勤務とするよう指示した。

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<日勤勤務における経緯と本件配転命令>

▼ T社は5月15日から5日間、本件事象に関し、「時間的推移」と題する書面および状況報告書、顛末書、再発防止シートをXに作成させ、事実関係を確認するとともに、面談を行って、列車監視に関するXの認識を改めるよう指導したが、Xは自らの行為に誤りはなかったとの立場を譲らなかった。

▼ T社はXに対し、再教育後の同月28日、運転知識に関する見極め試験を実施したが、Xの得点は100点満点中75点で合格点(90点以上)には達しなかった。

▼ 6月2日、T社はXに対し、再度見極め試験を実施したが、Xは白紙の答案を提出した。T社は同月7日にも試験を実施しようとしたが、Xは受験を拒否した。

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