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#280 「X運輸事件」奈良地裁

2011年3月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第280号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【X運輸事件・奈良地裁判決】(2010年3月18日)

▽ <主な争点>
正社員当時の給与と定年再雇用後の給与の差額請求等

1.事件の概要は?

本件は、X運輸の従業員であるAが、同社が従業員らとの間で協定したとして平成19年2月からAに適用したシニア社員制度の制定は、給与を不当に減額するものであるとして、従前と同一水準の給与に満たない部分を未払い賃金として求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<X運輸およびAについて>

★ X運輸は、貨物自動車運送事業等を目的として設立された会社であり、Y製パンの完全子会社として、同社で製造されたパン類の輸送を請け負っている。

★ X運輸には、建交労X労働組合(組合員数7名ないし8名)およびX運輸とユニオンショップ協定を締結しているフード連合X運輸労働組合(組合員数約140名)という2つの労働組合がある。なお、Aは建交労に所属している。

★ A(昭和22年生)は、X運輸の従業員であり、平成元年12月から勤務している。

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<高年齢者雇用安定法の改正、シニア社員制度等について>

★ 平成16年6月、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」という)を改正する法律が成立し、18年4月1日から施行されることになった。同法改正の目的は、少子高齢化社会の急速な進行の中で高年齢者の能力の有効な活用を図ることとされており、具体的には、65歳未満の定年の定めをしている事業者に対し、(1)当該定年の65歳までの引き上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)当該定年の廃止のいずれかの措置を講ずることを義務づけている(同法9条)。

▼ X運輸は、上記高年齢者雇用安定法の改正を受けて、運転職に関し、従前の満60歳定年を維持することにした上で(2)を選択することとして、「シニア社員制度」を制定し、下記のとおり、フードX労組との間で協定書(以下「本件協定書」という)を締結した。

その内容は、具体的には、
i)満60歳の定年年齢に達した者には一旦会社を退職してもらう。
ii)上記後は、協定書所定の基準を満たす者につき、満65歳に達するまでの間(ただし、生年月日が昭和24年4月1日までの者については別に定める年齢に達する日までとする。)、1年契約の更新制として定年に引き続き再雇用する。

▼ X運輸は、「シニア社員制度」につき、就業規則においても「嘱託」を規定する47条2項において、「定年退職後も引き続き再雇用を希望する者は、定年予定日の3ヵ月前までに申し出るものとし、別途労使間で協定した「定年退職後再雇用における選定基準等に関する協定書」の選考基準および取扱によりシニア社員(身分は嘱託)として再雇用することがある。」と規定している。

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<Aの定年退職、勤務実態等について>

▼ Aは平成19年に満60歳となり、定年退職となったため、退職金を受領し、X運輸との間で「シニア社員(嘱託)労働契約書」に署名押印した。

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