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#120 「東京海上火災保険事件」東京地裁

2006年1月18日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第120号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【東京海上火災保険(以下、T社)事件・東京地裁判決】(2000年7月28日)

▽ <主な争点>
労働能率が著しく低いことを理由とする普通解雇の効力

1.事件の概要は?

本件は、就業規則の「労働能率が甚だしく低く、会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当することを理由にT社から普通解雇されたXが当該解雇は無効であるとして、T社に対し、従業員たる地位の確認と賃金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社およびXについて>

★ T社は損害保険業等を目的とする会社である。

★ Xは昭和62年4月、総合職としてT社に雇用されたが、それ以降の主な経歴は以下の通りである。

昭和62年6月 情報システム部企画第四課
平成元年1月 情報システム開発部企画第五課
  同年4月 同課副主任
  3年6月 情報システム開発部企画第一課副主任
  6年8月 業務調査部開発第二グループ副主任
  8年8月 A生命に出向(同社開発部支援グループ副主任)
  10年3月 T社に復帰し、人事企画部副主任

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<Xの長期欠勤について>

★ XがT社在籍中に長期欠勤した期間および理由は以下の通りである。

(1) 4年11月~5年3月(約4ヵ月間)出勤途上の駅の階段にて左足負傷
(2) 6年3月~同年8月(約5ヵ月間)私用で乗用車を運転中の事故で左肘等負傷
(3) 8年5月~9年4月(約1年間) 出勤途上に腰部負傷(腰部椎間板ヘルニア)
(4) 9年9月~10年4月(約6ヵ月間)乗用車のドアに右足を挟まれ負傷

▼ 上記欠勤(2)について、6年8月、T社はXの病状を本人から直接聴取するため、出社するよう指示したが、Xは出社して聴取を受けることは治癒を遅らせる要因になるとして、これを拒否した。

▼ その後、T社が受診を指示した医師による診察の結果、Xの負傷はすでに治癒していると判断されたため、T社は就業を命じ、Xもこれに応じた。

▼ 上記欠勤(3)について、8年10月、T社はXに対し、病状を聴取するため、出社するよう指示したが、Xは診断書を提出したのみで出社の指示には応じなかった。

▼ 9年2月、T社はXの主治医に病状等を文書で照会したところ、同医師は「腰痛残存するも日常生活上の支障はない」、「デスクワークに就くことは十分可能と考える」、「患者の積極的な態度が見られなかったことがあり、治療が長引いている」旨を回答した。Xはその後も風邪が治らないこと等を理由に同年4月まで欠勤した。

▼ 上記欠勤(4)について、10年2月、T社はXに対し、同社が指定した医師の診察を受けるよう指示したが、Xはこれを拒否した。その後、T社はXの主治医に対して、病状等を文書で照会したところ、同医師は就業可能である旨回答した。しかし、Xは就業を拒み続けた。

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<本件解雇に至るまでのXの勤務実績・態度等について>

▼ 10年4月、T社はXが普通解雇事由を定めた労働協約および就業規則の「労働能率が甚だしく低く、会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という)。

★ Xは4年11月以降、上記4度の長期欠勤を含め、傷病欠勤が非常に多く、その総日数は本件解雇までの約5年5ヵ月のうちの約2年4ヵ月に及び、長期欠勤明けの出勤にも消極的な姿勢を示し、出勤しても遅刻が非常に多く、離席も多かった。

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