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三田誠広『いちご同盟』 感想文

 いい加減大人になりなさいと言われるかもしれないが、僕は小説にしろ映画にしろ結末で人が死ぬ物語が大嫌いだ。(ホラーやミステリーは除く)
 特に病気や事故で死ぬことでストーリーが完成する話は、鳥肌が立つくらい嫌いである。憎み蔑んでいると言ってもいい。これは死に対する忌避の意識もあるのだろうけど、何よりも嫌なのは、死というものは人の心を動かすことを必然的に約束されたパイだからだ。可愛らしい動物をSNSで披露するようなものだ。そんなものを利用する作家は、とんでもなくあさましく想像力のない下劣な人間だと思っている。

進学、夢、家庭、学校、大人へのタイムリミット、現実へのタイムリミットー
主人公の良一は14歳で、生きる意味を見失い、死に取り憑かれている。
数年前、自殺をした11歳の少年の記事を見た。良一は何度も、少年が現実を叩きつけた13階の非常階段を訪れる。

「むりをして生きていても どうせみんな 死んでしまうんだ ばかやろう」[いちご同盟/三田誠広 集英社文庫 p10]

 壁に刻まれた少年の結論は、良一の死に対する意識を次第に強化していく。

 ある日、良一は徹也という少年と知り合う。半ば強引に頼まれごとを引き受け、その中で徹也の幼馴染である直美という少女と知り合う。直美は重い病気を患っているらしい。
 次第に良一は、自分が囚われているあの一文字が直美を捉えようとしていることを理解していくー

 この小説は人が死ぬ物語ではない。
 三人の子供たちが一つの死に挑み、生きる意味を獲得していく物語だ。
 これは想像だけれど、良一と徹也は以降、二度と顔を合わせることはなかっただろうと思う。
 それでも15歳の夏の終わりに直美が命をかけて示し、二人が共有した生きる意味は、彼らの中で死ぬまで生き続けるのだと思う。


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