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電脳と煙


ふと道を歩いてる時に、急に車の正面が怖くなる時がある。映画とかでよく見る、自意識を持った車とか、メカとかそういうやつが連想されてめっちゃ怖い。
映画の中で、制御不能に陥ってなりふり構わず暴走する車を何とか止めようとするけれど、数人犠牲になってもう無理だって諦める時のあの曇りのない空みたいな恐ろしい静けさ。吹かすエンジン音だけが音を奏でて、それ以外の音が消えたようなあの感じを想像する。

もう数年前になるけど、私の学校の近所に車が突っ込んだ。人が亡くなって、暫くそこは規制されて通れなかった。詳しく言うと学校バレそうだから言えないけど、胸糞すぎる犯人の人格がニュースで報道されてた。止まる気配のない車が正面からくる恐怖は、実際に味わったことなんてないけど処刑を待つ時みたいな死を感じるのかな。色んな原因で人は死ぬけど、最後にあんな恐怖を感じるのは嫌だ。

自殺するとき、幸せな走馬灯で死にたいって今日ご飯を隣で食べてた人が言った。彼女が語ったことの全てに、わたしは共感した。わかるーって。辛いって思うこともわかる。似てるから。でもなんだか腑に落ちなかった。皮膚と体の中身の間に隙間がある違和感。いつもそうだ。同じ価値観の人に出会ってほっとするつかの間、みんな私を置いていってしまう。今日も、隣のふたりは私を置いて熱心に話して、ラベルみたいな友情の確認していた。2人は、皮膚でつながっていた。ふたりがら語るくだらない走馬灯とやらに、私は入ってない、なぜなら、皮膚をつなぎ合わせるのに必死で、私はちっともついてけないから。みんな散々そんな話を私にして、私の事を思い出す人は何人いるんだろう。皮膚はいつくっついてくれるんだろう。

1人になりたい時があるのに、直ぐに誰かと一緒に居たくなる。1人の朝は寂しいし、大好きな人の片思いも軽率に諦めたくなる。そばにある手に入りやすい物を大量にかき集めて、孤城を建てる。でも脆いから、すぐぽろぽろ崩れてくる。プラスチックみたいな硬質で体に悪そうな欠片が落ちてくる。もっと大きくて密度が高いものが欲しい。もっともっと、私の背後に立ち続ける薄暗くて寂しいひとりを抱きしめてほしい。

ふと小学生時代の仲が悪かった担任を思い出した。今になって、悪いことしたなって思う時がある。沢山傷つけられたけど、あの人は私の感受性を受け止めてくれていたし、荒くれる私を拒絶しなかった。わたしは私でいられた。すれ違った白髪になった先生をみて、叫びたくなった、私はどうすれば1人じゃなくなるの、あの時はごめんなさい、今とっても寂しいよ、みんなが私の中に入ってきてくれないんだ。
私の周りでみんな自分勝手に叫んで、嘆いて、病んで、私に当たって、1人になりたくて、でも私は一人が怖くて、諦められなくて、辛いことをされても楽しかった記憶が黒に塗り替えられなくて、水性インクみたいに黒が弾かれていく。私の憂鬱、私の体は私の本音だ、私は私の本音だ、探らなくてもすぐ分かる。私を見たら、私の本音が解るのに。私の憂鬱、共有を試みてもみんな背を向けていく憂鬱、運命の糸にステッチされたわたしの口唇。開こうとする度に、煙の残りかすが無慈悲に吐き出されるだけ。学校の、うすぐらい塀に囲まれた隙間に、冬の届きそうのない高い空から放り出された私は、私は、黒煙みたいにふわふわな、憂鬱の煙を溢れさせながら堪えるひとりだ。あなたが今日、かじかむ寒さに咲くたんぽぽを見つけたように、今日も私は気づいてる。

酸欠になった紅葉の葉ははらり、終える。

私の走馬灯に映るのが、今よりもっとあったかい孤城になって欲しくて、今日もまた、目を伏せる。



ヘッダーの写真、私が撮ったの!凄く気に入ってる工事現場のクレーンがすてき

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