プトレマイオス派グノーシス主義の教説②

超越的世界プレーローマと中間界のイメージ図
上:十字架(スタウロス)によって境界線で覆われたプレーローマ
左下:ソーテールとアンゲロス 右下:アカモート(下のソフィア)

【中間界の主要的存在の詳細】
・アカモート《智慧》
 =上天のソフィアの娘(分身)
 =境界のソフィア
 =下のソフィア
 =エンテュメーシス《思い》
 =聖霊
 =娼婦性をもったもの
 =オグドアス(八つのもの)
 ≒エルサレム
 ≒ゲー(大地)

・ソーテール《救い主》
 =全き美
 =プレーローマの星
 =イエス・キリスト(第二のキリスト)
 =ロゴス
 =パラクレートス《援け主》
 =パンタ《万物》

・アンゲロス
 =ソーテールのための守護天使

【中間界構成表の詳細】
 中間界での出来事については、主に超越的世界プレーローマ内で起こったソフィア(上天のソフィア)の過失によって産み出され、その後プレーローマ外に棄てられたパトスの付随しているアカモート(エンテュメーシス)と、第一のキリスト及び聖霊によって治癒されたプレーローマ内の全アイオーネスが、至高神の栄誉と栄光を讃えるために自分たちの最もよいものを集めて流出したソーテール、及びその守護者であるアンゲロスたちにまつわる話が中心となっている。アカモートは、ソフィアの娘であり分身でもあるが、ちょうど流産したかのように不完全なものとして生れ落ちたものであったために形相も姿も持っていなかった。プレーローマの第一のキリストが棄てられた彼女を憐れみ、デュナミス(スタウロス)を通り抜けてプレーローマ外に出て、「自分固有の存在に基づいた力」によって彼女に形相を与えて存在者としたが、これはグノーシスに基づくものではなかったばかりか、この第一のキリストがアカモートから力を引き戻し、彼女を置き去りにしてプレーローマへと帰ってしまったがために、アカモートは、自分が経験した第一のキリストに憧憬の念を抱き(=これによって自分を生かしたものへの《エピストロペー(立ち帰り)》が生じた)、これを追い求めるようになった。しかし、彼女にはシュジュギアをなす伴侶もおらず(当初彼女は全アイオーネスが流出したソーテールを知らず、見えていなかった)、その上に非神的要素であるパトスと混じっていたために、デュナミスに《呪われたもの(IAO/イァオー)》と識別されて遮られてしまい、プレーローマに入れなかった。上天のソフィアが、パトスを受けない状態から受ける状態への変化を被ってからデュナミスによって立ち帰り、パトスを捨てることでアパテイア(無感動)の状態に戻ったのに対して、アカモートの場合は、棄てられた当初から、互いに相反する多様なパトスが付随しており、対立するパトスのどれもが排除されず、同居状態(二項対立状態)を続けて共にあり続けていることから、これを自力で消滅させることはできず、その矛盾する際限の無いパトスを根絶できない苦しみに陥ってしまった。この故にアカモートはアグノイア(無知)のうちに、伴侶を捉えることができなかったがゆえにリュペー(悲しみ)を、他方生きることも彼女を残し去るのではないかという不安からフォボス(恐れ)を、またデュナミスに遮られたことでアポリア(行き詰まり[≒アメーネイア、≒エクプレークシス])を被ったとされる(これらの四つの要素は、後にそれぞれ「火」「空気」「水」「地」の四つの元素として生成される)。この苦しみゆえに、アカモートは自分を残し去った第一のキリストへの嘆願へと転じた。これに対して第一のキリストは、自身の父であるヌースおよび他のアイオーネスの協力を得て、アカモートを癒すためにソーテールとそれを守護するアンゲロスたちを派遣する。アカモートは、ソーテールを見て走り寄り、ソーテールは彼女にグノーシスに基づいた形相を与え、彼女がアグノイアのうちに被ったリュペー・フォボス・アポリアの三つからなるパトスを切り離して治療した。しかしこの切り離したものは、それ自体すでに習性を持ち、力あるものとなっていたので、ソーテールはそれを消滅させることはできず、それらを練り固めて非物体的物質(=全く形相のない第一質料)へと変えたという。また、彼はアカモートから別に生じていたエピストロペーを心魂的存在にした。そして治療を受けたアカモートはどうしたかというと、彼女はソーテールと共にあった天使たちを見て発情し、その模像に従って霊的胎児を想像妊娠した。これまでの一連の出来事において生じたものをまとめると以下のようになる。

・パトス
 =アグノイア(→[火])
 =リュペー(→[空気])+フォボス(→[水])+アポリア(→[地])
 =非物体的物質(=全く形相のない第一質料)
 =物質的存在
 =左のもの(左の手)

・エピストロペー
 =心魂的存在
 =右のもの(右の手)
 →デーミウールゴス

・霊的胎児
 =霊的存在
 =種子

 これら三つの要素は、この世の宇宙の起源、および人間の起源の説明と密接に関わっている。まず、アカモートがソーテールから学んだものを元に心魂的存在からデーミウールゴスを流出する。このデーミウールゴスは、彼と同質のものである心魂的なもの、およびパトスとパトスに由来する物質的なものだけの父、あるいは王だとされる。彼は、ソーテールが第一質料として残した非物体的物質を、物体的なものとして、この世の宇宙万物を製作するが、彼自身は、自らが構築した七つの天の上に座し、それ故にヘプドマス(七つのもの)と呼ばれ、その母であるアカモートは、その上に座するがゆえに、オグドアス(八つのもの)と呼ばれた。

・デーミウールゴス《構築者》
 =心魂的なものの父(パテール)
 =物質的なものの製作者
 =一切のものの王
 =母父(メートロパトール)
 =父なき者(アパトール)
 =ヘプドマス(七つのもの)

 デーミウールゴスは無意識的で、この世の宇宙万物を模像として構築することを可能ならしめる、原型イデア(範型)に相当する光の超越的世界プレーローマ、および彼の母であるアカモートについて無知であるとされる。彼にとっては自分だけが全てであり、自分が唯一の神であって、万物の創造は全て、自分自身の力によって可能となったものだと思い込んでいるとされる。ただし、以上のデーミウールゴスの性格は、アカモートの作為的な業によるものであるとされている。デーミウールゴスは、この世の宇宙を構築したとき、第一質料《無》の中の流れ出る液状の部分から泥的人間をかたち造り、これに心魂的人間を吹き込んだとされる。

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