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アンドロゲン補充療法で脳性麻痺を治す

低緊張の子供が筋肉をつけるためにはテストステロンが必要です。

そこでボディビルをしている人にどのようにしたらよいかと訊ねたところ「僕たちが筋肉をつけるために薬を使うことは間違った使い方ですが、あなたのお子さんにこれらの薬を使うことは正しい使い方です」と言われました。

ただし「どの薬をどのように使えばよいか?」ということは誰にも分りません。脳性麻痺の子供にアンドロゲン補充療法を行った人がいないからです。お医者さんに聞いてもわかる人は誰もいませんでした。ここからは完全に自己責任の世界。子供が死んだら私のせいです。

それでも私はテストステロンを子供に与えました。

結果はテストステロン軟膏を塗った2日後に座位が正しく取れなかったような子供がいきなり立って歩いたんです。

その時のことを私はよく覚えています。TVを見ていたらいきなり大きな声を出して叫びながら、何にもつかまらずすっくと立ち上がってTVのほうへと歩いたのです。初めて歩くので感覚がよくわからなかったのでしょう。「ドン!ドンドン!」と大きな足音を立てて私の前を通り過ぎました。子供は3歩歩いた後に振り返って私の方を見てニヤリと笑いました。私は「凄い!凄いなぁ!」と叫ぶと子供は私に抱き着いて「やったぁ!」と言いました。

それまで「あああ」くらいしかしゃべれていなかったのに、「やったぁ!」が言えたのです。それまではつかまり立ちくらいならさせればできたけれど足を痛がって苦しんでいたんです。「痛くない?」と聞くと「へいき」と答えました。

筋肉がついただけでなく、言語発達も進歩していたんです。

私は興奮しました。薬の効果を強く感じ、この時は勝負に勝った気になっていました。

でも世の中そんなに甘くない!

テストステロンを足したらそれからすべての経路で対策を取っていかなければならず、アロマターゼを阻害したりACTHを増やしたり、DHEA製剤に頼ったりしなければならないんです。

それはまるでもぐらたたきをしているようでした。

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テストステロンの与え方

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私はテストステロンを子供に与えるときに軟膏を使いました。理由は子供だからです。大人なら注射や経口摂取も可能ですがどちらも無理に決まっています。注射は痛いので子供が嫌がってうまくいかないでしょうし、経口摂取すると肝臓で代謝されるので内臓がボロボロになりそう。それで軟膏で皮膚から吸収させるという方法しかありませんでした。

テストステロン軟膏を病院で処方してもらおうと思ったら「病院が出せる薬ではないよ」と断られました。主にテストステロン軟膏は早漏の男性向けの商品として発売されていたのです。漢方薬局の先生に相談してみたところ「プリズマホルモン軟膏」という商品がいいだろうということになりました。この商品は純粋にテストステロンの成分が基材に混ぜてあるだけなので子供にも使いやすそうでした。それを楽天市場で購入して使い始めました。



塗る時間帯:テストステロンが朝出るホルモンなので朝に塗る
塗る量:いったん指にとって拭いて指に少量残ったものを子供に塗る程度の少量でよい
塗る頻度:週に2回まで。投薬期と休薬期をはっきりさせる。

注意点:

テストステロンを塗るとインシュリンが出るのでおなかがすきます。そこでおにぎりを食べさせながら塗ったり、普段よりもできるだけ食事量を多くできるようにします。もしも前日の総摂取カロリーが少なかったり夕食や夜食で炭水化物を取る量が少なければ重度の低血糖を起こしてしまいます。それは死に直結する危険なことなので、テストステロンを塗る日は前日の食事の様子をよく観察して安全だと思えたときにしか塗らないほうが良いです。

1日目:塗る前の日:炭水化物を多く摂取する日
2日目:塗る日:タンパク質を多く摂取する日
3日目:塗らない日:炭水化物とタンパク質を多く摂取する日
4日目:塗らない日:炭水化物を多く摂取する日

私はこのように4日を1セットで考えていました。実際には毎日「炭水化物とタンパク質と脂質」をしっかり食べさせようとしていたのですが、塗る日は特に多くたんぱく質を食べさせました。血糖値が下がりかけているときはおなかがすいてどんぶり1杯くらいなら子供でもペロリと食べるときがありますが、逆に絶食になるときがあります。

絶食は危険な兆候なのでそうなってきていたら焼肉屋に行くようにしていました。理由はたんぱく質だけならそういうときでも取れるからです。冷汗が出て絶食が始まって発作の恐怖を感じたときに焼肉屋に連れて行くと私の子供は16皿を一人で平らげました。500gのステーキを15分で食べきったこともあります。投薬期間内は普段の5~10倍くらいは食べると思ってよいです。

よく食べる時はスクワットのやり方を教えてやると一人で延々とやっていました。運動を欲しているのだと思います。テストステロンを塗り始めて16日目には立ったままボールをドリブルしていました。

万が一低血糖症状が出てしまったらおにぎりやおかゆを食べさせたり、せんべいやクッキーを食べさせます。よほどひどい状態で固形物が食べられないならば、ブドウ糖を水に溶かしたものを与えます。ただしブドウ糖を摂取すると反動でインシュリンがさらに出て余計に悪くなることもあります。状態を見ながらブドウ糖でよいのかを判断しなければなりません。悪くなる前は暑くもないのに一人だけ雨に濡れたかのように汗だくになります。元気でよく動いているのに服がじっとりと濡れていたら要注意です。その日低血糖で倒れなくても2~3日してから重度の発作を起こしたりけいれんやてんかんのような発作を起こすことがあります。発作を起こすときは妙に浮腫んでいて頭が少し膨らんでいるように見えます。

こうならないようにするには「塗る量が多くなりすぎないようにする」「食べたがらなくても無理にでも炭水化物を食べさせる」というのが大事です。

塗ると筋肉がついて塗るのをやめると筋肉が落ちるので塗り続けたくなりますがそれは絶対にやってはダメです。薬で足し続けていると自己生産分が減るからです。投薬と休薬のバランスを取ることがとても重要です。「薬のおかげで立って歩ける」のではなく、薬で足すことによって動けるようにして筋肉を使うことでテストステロンの自己生産量を増やす」ことが本来の目的です。使う量はできるだけ少なくするようにし、与えた日や次の日は必ずたくさん運動をさせて筋肉を使わせるようにします。

また塗った後は寝てはいけません。二度寝をしてしまうような体調の日は塗るのをやめます。塗るなら外出する予定がある日にするように決めておくとよいです。なぜならテストステロンは体内時計に関わるホルモンなので、起きたときに一度出ているものを余計に足した後に寝てしまうと体内時計がずれてその後しばらく時差ぼけのような感覚になります。大人であれば時差ぼけ程度の具合の悪さですが病気の子供にはかなりきついと思います。これは徹底して管理したほうが良いです。

子供にテストステロンを足すという行為はとても危険なことです。そもそもこの薬はこのような使い方をするようにはできていません。小児科の先生や薬剤師さんと相談しながら慎重に使っていましたが、こんな使い方をした人はほかにいないので正しい量や頻度なんて誰も知らないのです。「あくまでもお母さんの自己責任」という前提でやっていたことです。

アンドロゲン補充療法を行うには必ず「食事の内容をきちんと管理したうえで行わないと毎日違ったものを違った量で食べていたらホルモン量にばらつきが出てしまって補充すべきホルモンの量が適切でなくなってしまうと効果が出ない」ということを理解していないといけません。

「薬を塗ったら筋肉がつく」という単純なものではないのです。普段から食事内容をきちんと管理して生体異物除去食を徹底していないと日によっては薬が効きすぎて発作を起こしてしまうこともあります。また筋肉の状態によって個人差も大きいと思います。これを行う場合は低血糖発作を起こした時の対処方法を必ず知った上で行うべきです。

私は失敗を重ねながらだんだんと使い方がわかってくるまで1年を要しました。


テストステロンを使うなら必ずアロマターゼを阻害する

重度の低血糖の発作が起きたときに血液検査をしてみるとテストステロンはとっくに代謝されてエストラジオールになってしまっていました。テストステロンがテストステロンとしての役割を全うする前に代謝されていては意味がありません。

低血糖が起きるときの症状の一つにむくみがあります。エストラジオールが増えたときに浮腫むので「テストステロンが多すぎて危険になった」というよりは「エストラジオールが増えすぎたせいで危険になった」と言えると思います。

発作を起こさないためにも「アロマターゼを阻害する」ということは重要になります。

アロマターゼ阻害薬はたくさん種類がありますが、ボディビルダーがよく使うのが「タモキシフェン」と「アロマシン」です。私はアロマシンを選びました。アリミデックスというお薬も使ってみたのですが心臓がバクバクいったりして効果が強すぎると思ってこれは辞めました。朝飲むのと夜飲むのでも効果の出方は違います。体に合う薬を探す必要がありそうです。

私はテストステロンを塗った後にアロマシンを1/8量子供に飲ませました。1/4だとテストステロンを塗らないときでも汗だくになっていたので、無理にテストステロンを塗らなくても十分効果があるのだと気づきました。


目安は乳首の状態

エストラジオールが多くなりすぎているときは乳首が飛び出してきます。本人は乳首を触りながら「ここが痛いの」というので触ってみると乳首の裏側がコリコリします。

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普段はこのくらいの乳首がこのくらいは飛び出ます。

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ボッコリでて真っ赤になるのでどうにかしたいと思ったのですが、小児科の先生いわく「この子は女の子だしこの程度なら問題ないでしょう」とのこと。問題ないと言われても普通じゃないしちょっと気になりますよ。


アロマターゼを阻害すると血糖変動が激しくなる

アロマターゼを阻害するならチャガ(シベリア霊芝)のお茶を飲む方法もあります。これは漢方薬として販売されているサルノコシカケ科のキノコのお茶です。乳がんをはじめとしていろいろな癌の患者さんが飲まれています。薬よりも穏やかで長くしっかり効くような気がします。

チャガやアロマシンを飲んだ後は血糖値が下がります。24時間血糖値を測っているとそれがとても分かりやすいです。薬を飲むと血糖値が下がるので食後に飲むようにすると良いです。チャガはそのままでも飲みやすくおいしい味をしていますがブドウ糖を入れて飲んだ方が良いです。ただお茶に含まれる薬の量はランダムなのでシビアに管理したいならアロマシンを選ぶ方が良いです。

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アロマシンを飲み始めたときはこのように血糖値の変動が大きかったです。2週間を過ぎたあたりから安定してくるようになりました。

食事をとるとガーン!と血糖値は上がり、その後ダーン!と下がります。このような血糖値の変動は空腹を感じさせます。どうしてもたくさん食べたくなるので食べると太ります。こういう時に食べたくなるのは甘いもの。アイスクリーム・シュークリームやクッキーのようなお菓子がおいしく感じます。でもこの時そういうものを食べるとただ太るだけで筋肉はつきません。

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日中は管理できているように見えても、うっかりうたた寝をしようものなら血糖値は計測不能なところまで落ちてしまいます。夜中の血糖値はひどいものです。底をゴリゴリ這うようなラインになります。

しばらく使っていると血糖値は安定してきて筋肉はうまく使えるようになりますが投薬期の初期は血糖変動が安定せずしんどいと思います。

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アロマターゼが多いとエストラジオールとコルチゾールは上がります。そして脳性麻痺の子供は夜間低血糖で夜は筋緊張が強くなりがちで、そうなった次の日は低緊張が強く出ます。悪循環ですね。アロマターゼと血糖値の関係は複雑ですが大変興味深いです。

テストステロンとアロマターゼ阻害薬の取り回しはとても難しいです。悩みに悩みました。

この頃から「低緊張とはコルチゾールが高い病気」ではなく「低緊張とはアロマターゼが多いせいで女性ホルモンとコルチゾールが高い病気」と考え始めました。そして人間のホルモンのスタートは必ずACTHです。テストステロンを途中から足した場合はなんだかうまくいかない。たくさん失敗しながらたどり着いたのは、「結局のところはACTHをどう増やせるかが自己生産のテストステロンを増やす秘訣なのだ」ということ。

それ以来、脳下垂体と真剣に向き合うようになりました。

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