ライナーノーツ 1:「呼びかけられて」 Ayane Yamazaki
Ayaneさんは僕の目の前に静かにすわり、薄墨色の瞳で僕の方をまっすぐにみた。
「はじめまして」僕がいうと、
小さくうなずいて「仕事のことを・・」
「どんな仕事をしているんですか?」
「音楽をやっています。シンガーソングライターっていうのかな。」
「どんな感じの歌ですか?僕は音楽がすきなので興味があるんです。」
「80年代のシティーポップのような」
「大貫妙子とか?」
「え!そうです。カヴァーしました。」
僕たちはお互いの心のジュークボックスの同じボタンを同時に押した。
魔法を教えて♪ 大貫妙子
https://www.youtube.com/watch?v=K_bRNUG-rHk
僕は原宿のタリムという占い館にたまに出ている。ブログなどを通じて来る人をメインに自宅で鑑定もしているけれど、僕の文章を読んでからくる人々は占師になりたい人たちやオカルトオタクがメインで、どうしても幅がせまい。
街に出てふつうの人たちの役に立ちたいとおもい、今、ここにいる。
原宿という場所柄、モデルをやっている青年や、アイドル活動をしている少女たち、映画女優さんなど、インターネットやSNS経由とは一味違う人達とも出会う。
ストリートが導く偶然の出会いがある。
目の前にいる・・少女、というのは失礼に当たるのかもしれない。
むしろもうすぐ還暦が近い僕の方が、ターボーの曲を通じて、その曲を聞いていた少年にもどってしまったのだ。
偶然出会った女の子が自分と同じ曲が好きだという他愛のない偶然の一致に舞い上がってしまう男子高校生。そんな感じだ。
ピーター・ラビットがタイムトンネルの暗い穴に飛び込んでいき
時を超えるFMの電波源を手繰り寄せて
僕たちを音楽の時代に連れていく
彼女の誕生日を聞く。
1999年生まれの水瓶座。
僕はパソコンに彼女のバースデータをいれて
ホロスコープという魂の楽譜を開く。
第八小節目で、天王星と海王星の間に太陽が挟まれている。
宇宙人?いや、彼女は過去からタイムマシンにのってやってきた
時をかける少女なのだろうか?
「よかったら君の曲を聞かせてもらってもいい?」
まっすぐ天使:
心と言葉 大事にできる 居場所さがしている♪
原宿の裏通り 風がふいて すべてが急に止まって見えた♪
タリムの界隈の風景のことをうたっている。そして、占いは言葉のアートなのでこの場所はまさに、心と言葉を大切にする場所。
不思議な偶然に僕は胸をうたれた。
キキ :
ルー・リードとコカ・コーラ♪
とてもいいやつにかまわれて♪
50年前のシンガー、ルー・リードと21世紀の二十歳の女の子?
僕の心は17歳の時にタイムスリップした。
「ルー・リードすごくいいよ。」
僕に彼の名前を最初に教えてくれたのは高校の同級生の女の子。
ロックが好きすぎて、茨城の田舎町からわざわざ原宿のロッキンオン編集部に通い詰め、渋谷陽一の手伝いをしたりしていた。
僕の中で記憶のテープが回りだす。
メビウスの輪のテープエコーのように過去と現在と未来がループになってしまい、一体自分は今どこにいるのかわからなくなった。
これが音楽の魔法であり、音楽を通じてつながる人と人の心なのだろう。
もうすぐ、君の生まれた水瓶座で、ゼウスとクロノスが和平会談をひらく。
2021年は君の運命に大きな恩寵がおとずれるだろう。
あなたは本当の音楽を愛する人にかならず発見される
木星はあなたの名声に祝福をもたらし、土星は確かなポジションを与えてくれるだろう。
音楽家の人生は今も昔も綱渡りだ。
かつて僕には音楽家の友達がたくさんいたが、
今はどう生きているのかすらわからない。
音は奏でる側から消えていき、流行歌は忘れ去られていく。
しかし、確かなものは言い伝えを残し、
くちびるづたえに魂の蜘蛛の糸をつなぐ
ルー・リードという蜘蛛は
この巷(ちまた)で迷う 何かを探す耳をつないでいく
彼女と話したのはほんの30分ほどだったけれど、
興味を持った僕は、アップルミュージックで彼女の曲を探し出し、
耳をすます。
音の裏側に隠れている魂のコードを手繰り寄せるためだ。
ルー・リードの蜘蛛の糸は、どういう経路で彼女に辿り着いたのだろう。
ここで、彼女のいくつかの作品のレヴューを描いてみよう。
魔法をおしえて
まだ夢を見ていた頃
手探りのあしたに
私を照らした あなたの微笑み
この曲で、Ayane Yamazaki は、先輩魔女から音楽の魔法を伝授されたのでないだろうか? ルーツミュージックをこよなく愛する彼女だが、「あなたの得意な魔法はこっちではないかしら? やりたい魔法と得意な魔法は時には違うことがあるものよ?」 と音楽の魔女は彼女を背伸びしないでいい場所に導いたのだ。
キキ 山崎彩音
https://www.youtube.com/watch?v=cRgklF6K8Lk
彼女のデヴュー曲
このPVは魔女の宅急便の主人公をイメージしているのだろうか?
屋根裏部屋のような部屋で、少女が一人ギターをかなで歌う。
彼女がこういう音楽を聞いて育ったことがわかる。
ルー・リードとコカコーラ
本当と嘘を比べて
時代にだまされてさ
とてもいい曲だと思うのだけれど、あと最低12年ぐらいオークの樽に詰めて寝かせておきたい。
この曲を聞いたときに、僕は京都出身のブルーズマンである古い友達のこの曲を思い出した。
行方不知 豊田勇造
https://www.youtube.com/watch?v=AI-4D51vTgs
これが、スモーキーな年代物のスコッチウィスキーだとすると。
女の子でも飲めそうな、少し甘みを加えた濃いめのハイボールのような感じだろうか?
アンビエントなシティーポップに変容を遂げた彼女の歌に何か芯があると感じさせるのは、ルーツミュージックに対する深い憧れとそれに近づこうとする努力があったからだと思う。
まっすぐ天使
https://www.youtube.com/watch?v=MffNXuKXgHo
夕暮れ時のまちの匂いを吸い込んで今
心と言葉 大事にできる 居場所探してる
原宿の裏通り 風が吹いて
全てが急に とまって見えた。
それでも、問題ないよって
腰に手を当てて 振り向いて
まっすぐに 天使だよ。
足を組んで 語りかけて・・・
2019年のアルバム「LIFE」から。
当時、原宿の占い館に座っていた僕にとって、とても身近な歌に感じられた。裏原宿の路地では、カメラマンが着飾った少女たちにカメラを向けて、ポーズをつけている風景が毎日のように見られる。
実は僕は20代の頃、写真家を目指していた。
運命の悪戯から占い師になって、裏原の占い館に座っていたから、彼女にあった。この運命の糸が細いものなのか、結構より合わされた太いものなのかはわからないけれど、この歌に不思議なシンクロを感じてしまう。
さて、Ayane Yamazakiのミューズの魔女としての卒業論文?と言えるアルバム 「呼びかけられて」の曲紹介に入ろう。
呼びかけられて
1:SIGN
https://www.youtube.com/watch?v=-ldOnqPhVvA
ノスタルジックに揺蕩うようなピアノフレーズと沈黙の裏側に吹いている優しい風を感じさせるサウンド。
8ミリ映画のサウンドトラックのような空気感と夢の中ようなおぼろな光を感じさせるような世界観。
ごくごく私的な夢の中のように モノクロなんだけど、
印象的なところだけ 淡く色付けてあるような
記憶の中の 風景 いつだかわからない
どこだかわからない
でも、消えない記憶。
Sign = 徴。 標(しるし) とも読めるし、 それが時の中に現れた時には兆(きざし)ともいう。これもまた、写真家であり、占い師である僕には自分に引き寄せてしまう曲である。
2:海辺のチャイナガール
https://www.youtube.com/watch?v=RLVz6WsMMFU
名曲である。
ナイアガラトライアングル世代なら、絶対にはまるだろう。
心の中に仕舞い込んだあの頃のお気に入りのカセットの中に確か入っていたような・・・当時のガールフレンドとドライブした思い出が蘇ってくる
いつかまた この恋に 恋い焦がれる時は♪
瞳の奥、映った波、僕はもうおばけさ♪
「村上春樹に呪われている」 というAyaneだが、そこのことを知る前にこの曲を何度も聴き込んで「小説を読んでいるような気分にさせる曲」だと感じた。
夢に出てくる人物は全部自分の分身だという。彼女の中の少年の歌なのか?あるいは彼女がチャイナガールなのか?
「僕がわたしになる時 私が僕になる時/とても簡単なことほんの一瞬の出来事。」 アルバム LIFE で、彼女はそうも歌っている。
この曲は、彼女にとって「海辺のカフカ」なのかもしれない。
魂が持つ一体化願望と 正気を保ちたいギリギリの抵抗
せめぎ合う切なさ
そもそも、海辺というものが、確かなこの世と永遠につながる此岸の境界なのだ。
これこそ、八章節目の天王星と海王星に挟まれた太陽だな。
無意識という、自分と他人の区別がなくなる領域に、アンテナをたて、心のスクリーンに耳を澄ます。それが彼女の作曲姿勢なのだろう。
そういう意味で彼女の軸になる曲の一つ。
ポップとアンビの分水嶺のこちら側を記しているメルクマールソングだと思う。
4:目覚め
https://www.youtube.com/watch?v=OWnP2WPdu14
お洒落なシティーポップの毛皮の下に
もしかしたら、007のロシアからきた女スパイのように
ピストルを隠しているかもしれない。
そんな危険な何かを感じさせる曲。
今はもうこの星がふてくされていて♪
胸を広げて 全て感じるの 祈ることも戦うことだと♪
Ayane がこの曲を作った2019年から2020年は、まさにこの惑星がふてくされていくプロセスにあった。彼女の念頭には何らかの社会問題やコロナの問題などもよぎったことだろう。でも、個別的な事象に振り回されずに、普遍的な「歌」であるために彼女はギリギリのところで、永遠の見地に踏みとどまっている。
祈ることも戦うことだと
僕も思う。
5:呼びかけられて
https://www.youtube.com/watch?v=g2TYwGyvRYU
心の奥に引き込まれていくような穏やかなビート
ノスタルジックにリフレインするコード
セミの泣き声のように語りかけてくるライトランゲージのような
デジタルな精霊たちのささやき
それを日常性のハミングの中に持ち込む Ayane の声
世界は架空のものかもしれないけれど、
私たちは今ここで確かに生きている。
時間のない国から、この時間線に展開され、空間に響きとなって広がる
あなた自身という映画
どの曲にも感じられることだけれど、
Ayane の音楽はプライベートだけれど普遍的な魂のサウンドトラックだ。
響いているのは Ayaneの音なのか、あなたの夢の中のミューズなのか。
6:風の谷のナウシカ
この曲をチョイスされては、僕はもう魔法にかかるしかない。
僕が生涯唯一の映画館で3回みた映画のテーマ曲なので。
ナウシカにはギリシャ神話の神々の様々な側面が凝集されている。
自然界の母としての森で純潔を守って暮らすアルテミス
天空をかけて、新しい時代のメッセージを伝えるヘルメス
軍略と英知の女神アテナ・パラス
英知と母性を兼ね備え、新しい時代を呼び込む女性のキリスト
くしくも2020年末、水瓶座でグレートコンジャンクションが起こり
風の時代の到来が占星術業界の外側ですら語られるタイミングに
無意識のこの曲を選曲する Ayaneは
「それにしてもよく風を読む」 by ユパ様
というわけで、Ayane さんは僕にとってのリアルなナウシカになってしまったのである。
6月23日 Ayane Yamazaki の新しいアルバム 「Ribbon」 が各配信サイトでリリースされた。
Ribbon は Reborn (生まれ変わり)なのだろうか? ルーツミュージック バンドサウンド シティーポップへのオマージュと模索してきた彼女は、「呼びかけられて」で新しい魂を受胎し、自分自身を生まれ変わらせ、生まれたばかりのカゲロウが羽を乾かすように、かすかで繊細な音楽の翼を広げて、真に彼女のスタイルといえる作品として結実させている。
アンビエント・ポップというジャンル付けになるのかもしれないが、僕はそれでも彼女はシンガー・ソングライターだと思っている。
類まれな存在感のあるその声をよりはっきりと届けるためにそのアンビエントなサウンドトラックはある。潜在意識から聞こえるサイレーンの声のような彼女の声に導かれて、しばし目を閉じるなら、目を開いた時に、あなたも別な時間線に生まれ変わる。
Ayane Yamazaki の声が存在しない時間線(タイムライン)から、
Ayane Yamazaki が、生きて歌う時間線に。
*)Ayane さんと鑑定を通じて出会ったことは、本人の許可を得て明記しています。