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27歳

大学3年の年明けの授業、図らずも僕と同じコマを取っていた君は、三島由紀夫の仮面の告白を読んだんだけどと言って、変な質問をしてきた。

「主人公が男の腋毛を見て勃起した理由がよくわからなかったんだけど、君はどう思う?」

それに対しては、読んだことがないし、僕はゲイじゃないからよくわからない、みたいなことを、やや狼狽えながらしたような覚えがある。
朝いきなりする質問じゃないんじゃないかと思いつつ。これ、村上春樹の小説の中で起こりそうなシチュエーションだな、なんて思いつつ。

当時はそれから本格的に就活が始まって、お互い単位は余裕があったのもあって、その年はもうほとんど会う機会がなかったけど、夏に1度だけ会った。
部室で人が多かったのもあって、なんか会話と呼べるかどうかわからないようなことを、一言二言交わしただけだったと記憶している。

それからもう10年近く経とうとしているけど、ようやく読んで、僕なりの答えを見つけた。

たぶん君は同性愛者ではなかったんだろうけど、あの小説を読むと、なんだか君の内側を見ているようで。唯一くらいに理解ができなかった部分を聞いてきたのかな。それとももっと深いところを話そうと思って、話の入り口にそれを聞いたのかな。

まぁ、今更どっちでもいいんだ。

そういえば、夏目漱石のこころもそんな感じだね。今もし読んだら君を思い出すと思う。精神的に向上心のないものは馬鹿だ、という台詞は君のためにあったんじゃないかと思うよ。なんか取り憑かれたようにその言葉を真に受けてたような気もする。

Nirvanaも君を思い出す要素で、大学生になってから聞いたのに27歳で死ぬなんてことを言い出すやつがいるんだなって、先輩と話した記憶があるよ。でもさ、やっぱり今でも思うよ、錆びるよりは燃え尽きた方がいいんだって。まぁこれ言ったのはカートじゃないけど。

そういや20世紀少年で自分も27歳で死ぬのかって思って生きてたら結局何事もなく28歳になっちゃう描写があってさ、僕も同じように28歳になっちゃった時に、なんか笑っちゃったよ。
それがもう30歳で、しかも結婚するんだから、人生わかんないね。僕も高校の時は27歳までで死ぬと思ってたし、最近までは結婚なんてしないよ絶対とか思ってたしさ。

そうそう、答え書いとかないとね。

主人公は、聖セバスチャンの裸体を見て、性の目覚めを意識したよね。それで初めてのejaclatioをした。でも、あくまであれは絵なわけで。
それで、近江が鉄棒に登ったその瞬間、彼は聖セバスチャンになり、鉄棒は矢になって、脇毛はその生命の証明になったわけだよ。絵で見たあの光景が、たった今、現実に、目の前にある。
そういや、聖セバスチャンには脇毛がないじゃん。だから、どこまでいっても絵は絵で、全然現実ではないんだよね。中学から高校くらいなんて、毛が生えてきたらなんとなく大人になったような気持ちになるじゃん、知らんけど。
ちなみに、たぶん、主人公は聖セバスチャンになりたかったんじゃないかな。だから、性的興奮と共に嫉妬したんだよね。あんな風になりたかったのに、それを、近江に奪われてしまった。まぁ、近江は鉄棒刺さって死んだわけじゃないけどさ。

まぁまぁ、こんなところじゃないかな。

今だったらこう答える。もっと早く読んどけば良かったね。まさかその年の終わりに自殺するとはまさか思わなかったからさ、就活が嫌になった夏なんて、映画ばっかり観てた。

それからの僕の人生は結構大変で、ボロボロだったんだよ。というのも、場所がわかんなくてさ、行けなかったんだよね。行かないまま何年も過ぎると、行かなきゃなって気持ちも薄れてきちゃうし。

友達の結婚式で君の墓の場所教えてもらって、みんなで一緒に君の墓参りしてから、泥の中で沈んでた僕の人生が、ゆっくりと、また廻り出した。

良くなるまで生きてただけなのかもしんないけど、生きてりゃなんとかなるもんだね。来世は簡単に死ぬなよ。


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