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ある出来事の始まり。

学生時代の話ですから、30年以上も前になります。
怖い話が苦手な方はご遠慮ください。
(僕も苦手なんですけどね)
夏休みに長野県のあるホテルにアルバイトに行きました。
住み込みです。
僕はフロント係に配置されました。
お客を部屋まで案内し、ホテル内の説明をしたり、ベッドメイキングをしたりする仕事です。
朝は、お客を見送り、部屋の掃除もします。
何日か経って、ようやく仕事になれた頃、古株の先輩従業員に「明日から混むから、ヒラタ君、この部屋の窓を開けて、掃除を頼む」とある部屋の鍵を渡されました。
その部屋はホテルの離れの棟にあり、二階の奥のつきあたりにありました。
そこの部屋は普段使用していないらしく行くのは初めてでした。
部屋の前まで来て、先輩から渡されたキーを差し込みましたが、何度やっても、鍵が回りません。
鍵が間違っているのかもしれないと思い、フロントに戻り、そのことを説明すると、その人は「なわけねぇだろう。ついて来い」と言って、鍵を僕から受け取りました。
部屋に戻り、彼が差し込むと鍵は嘘のように回りました。
ドアを開け、二人で中に入りました。
大きなベッド、鏡台、小さなテーブル。左に浴室とトイレ。
他の小さめの洋室と同じつくりです。
西向きの窓のせいか部屋は少し、薄暗く感じました。
長い間、使われていないからか空気が少し淀んでいました。
突然、回りの物音が急に何も聞こえなくなりました。
それは唐突にやってきました。
首筋に何か冷たいものが当たるような感じがして、それが背中に伝わり下に降りていきました。
全身がぞわぞわしました。
その人がぼそっと言いました。
「やっぱ、やめよう」
二人で急いで部屋を出て、鍵を閉めました。
無言のまま、フロントに戻ると、古株の従業員が言いました。
「あの部屋は、しばらく使ってないんだ。昔、あそこで女が自殺した」
僕もその人も、そこで何も見ませんでした。
どうして、部屋の鍵がまわらなかったのか,今だにわかりません。
でも、部屋の中で”何か”を感じたのは確かです。
ディーン・R・クーンツという作家が小説の中でこんなことを書いています。
「いつだって感じることの方が知っていることより大事なんだ。感情は知性なんかよりずっと優先するんだ」
それ以来、僕は”何かの存在”を時折、感じるようになりました。
本当です。
実は3か月前にも”それ”がありました。
横浜の古い雑居ビルの4階の踊り場でした。
時刻は夕方。
大事な連絡をしようと知人に電話をかけている時でした。
薄暗がりの中、上の階からは子供達の笑い声がしました。
その階には中国系の子供達が通う塾がありました。
踊り場の窓に顔を向け、呼び出し音を聞いていると、突然、背中を一陣の風が通り過ぎました。
まるで、子供が階段を猛スピードで駆け下りた風圧のような感じです。
でも、振り返ると誰もいませんでした。
足音もしない。
さすがにゾッとしました。
見たことはない。でも、感じる。
皆さんの中にも経験があるかもしれません。
信じるか信じないかは人それぞれです。

”それ”は

始まらなくても良かったんですけどね。

#私の不思議体験