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心を揺さぶる手紙

コロナ・ウィルスの影響で数々の公演がなくなった。

演者やスタッフの気持ちを思うとやりきれない気持ちでいっぱいです。

喪失感を抱えたすべての人に。

”苦難からの卒業”の意味も込めて。


今から数年前、芸能事務所に所属する未来のスターを目指す若者たちが舞台をやることになった。
濃密で厳しい3か月の稽古。
初舞台の幕が上がる前日、メインの役者の一人が虫垂炎にかかり、入院してしまった。そのN君に舞台初日、演出家が送った手紙。


N君へ

 今回のことはとても残念に思う。

君はとても良くやっていたので、舞台に出させてあげたかった。

病院のベットで天井を見ながら、君は色々なことを考えているだろう。

みんなにすまないと思っているだろう。

どうして、僕が?

何故、今なんだろう?

と悔しく思っているだろう。

でも、気に病む必要はない。

君はまだ若い。

これから、様々な出来事を体験する。

良いこともあれば、悪いこともある。

それらすべてが”糧”となって、君を作っていく。

残酷な言い方かもしれないけど、今回の出来事はそのひとつに過ぎない。

乗り切れ。

克服するんだ。

それ以外に道はない。

とにかく前に進むんだ。

その先には、必ず何かがある。

それはたぶん、とてもいいことだ。

歯をくいしばり、頑張れ。

はいつくばってでも、前に進め。

とにかく進め。

進むんだ。
 

それから、君は自分が思っているより好かれているよ。

誰も君を悪く言う人はいない。

君と作った”屋上セット”は相変わらず、舞台の上に凜として鎮座しているし、今日も使わせてもらうだろう。

舞台に一番近い楽屋入り口には君の似顔絵が貼ってある。

他のみんなは相変わらず、僕に怒鳴られながら、頑張っているよ。

稽古場や舞台、楽屋にはたぶん”君の想い”がまだ残っているだろう。

僕らまだ君と繋がっているんだ。

想いや願いは必ず人に届く。

今回の公演が無事に終わり、いつか君に会うことがあれば、僕は君に言うだろう。

「N君とみんなのおかげでうまく行った。ありがとう」

大丈夫。

想いはきっと届く。

必ず。