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オグナ 小説(7)

↑これまでのお話

夕宴には出席するようにと言われたのでその後は侍女達に寄って集って身支度をされた。
「姫さま、少し痛みます。我慢してください。」
一人はずっと髪を櫛っていて、また一人は寝そべっている私の太ももの裏をぐりぐりしている。また一人は肩から腕にかけて甘い香りのする油を擦り込んでいる。
痛気持ちいい。
「この前日焼けしてしまったことが惜しまれますね。あれがなければもっと美しくできましたものを。」
スズが両手を握りしめて悔しがっている。
「そんなにしなくてもいいじゃない。」
「駄目です、オトタチバナヒメになんか負けていられませんから。」
「負けてたっていいのよ。張り合う気もないし。」
キッと鋭い目を向けたスズが噛みつくように言う
「もともと負けてなんて居ません。私の姫さまは負けていません。足元にも及ばないのをスズが見せつけてやります。」
「なんでそんなにあなたが張り合って居るのよ。」
そんな会話が交わされている間に椅子に座らされて顔にも油が塗られて念入りにぐりぐりともみほぐされた
「姫さまは口を閉じていてください。」
「はいはい。」
そう言ってスズは他の侍女達と紅の色や服の色、裳の色、数、髪型、簪などを相談しながら決めていく。
仕上げに手首と足首に鈴を付けた紐を巻いた。
出来上がりはスズ達の満足のいくものだったようだ。
嬉しそうに私を見ている
部屋から出ると兄が待ち受けていた
「上手く化けたな。」
「兄さんの目にもそう見えるのならスズも喜ぶでしょう。」
私の機嫌が悪いのが伝わったのか、苦笑する
二人して夕宴の間に向かう
「なんだ、皇子に嫁ぐのは不満か?」
「あの人は、美丈夫です。なのでおモテになるでしょう。なぜ、巫女の私に声がかかるのかわかりません。」
ツン、と応える
「んー、まあ巫女だろうとなんだろうとあいつには関係ないんだろうな。」
「兄さんだってあんまりいい話じゃないって思って居るんでしょう?」
「まあ、皇子とはいえあいつは大王に怖がられているから先の事はわからんし、死に急いでいる気もするからな。お前には幸せに過ごして欲しいと思っている。」
「自分の親に怖がられているんですか?」
「その話は追々。着きましたよお姫さま。」
口元に人差し指をたてた兄は前を向くとそのまま歩を進め父の席の隣に設けられた自分の席に胡座をかいて座る
私は皇子の席からは離れた席に着いた。
それを見て兄はまた苦笑する。
数刻後、父と皇子が連だって来て席に着く。
皇子が立ち上がって宴の始まりを宣言する
「みんな、今日は我が膳夫(カシワデ)のナナツカハギによる酒宴を楽しんで欲しい。」
サワサワと訓練されたような動きで女性たちが料理を運んで来る
目の前には見たことの無い料理が次々と並べられた。
尾張は大王の支配が届くギリギリの境目で、膳夫(カシワデ)というのは料理人の事。
なぜおもてなしする側の私たちがおもてなしされているのかと言うと料理の腕を見せつけて支配を確認するため。
でも、慣れない土地で食材も使い慣れたものじゃないだろうし欲しいもの調達するのも大変だろうし、やらされる方はたまらないだろうなあ。
ナナツカハギさん、お疲れさまです。
感謝して目の前の御馳走に手をつける。
膾(なます)羹(あつもの)焼(やきもの)造りなどを並べてクチナシの葉などで飾り立ててある。
「旨っ、何これ」
見た目だけじゃなく味も旨い
顔は平静を保ちながら優雅に見えるように装いつつしっかり箸を進める
「ミヤズ、舞を」
上座で座っていた父が声をかける
えー、まだ食べてるのに
後で食べられるかなあ
取っておいてくれるかなあ
後ろ髪を引かれる心の内は伏せてたちあがり部屋の真ん中まで歩を進め、皇子に向かい礼をする


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