リゾートバイト体験記〜湯婆婆との戦い〜
仲居には湯婆婆がいる。
湯婆婆、千と千尋に出てくる、あの強欲で意地悪なばばあだ。
映画の湯婆婆はとても醜悪な見た目をしているが、こちらはとてもキレイだ。白髪が一本もない長い黒髪を丁寧に結い上げている。顔は小さく、白い肌に、唇にさした朱色が映えている。
なぜ、湯婆婆なのかというと、その口調だ。
ミスをすると、「なにやってんだい!」「あほか」「みくさん、ありえないからね」「何度言ったらわかるんだい」などと叫ばれる。
そもそも事前の説明も研修もなく、実践で慣れろというほうが無理なのだ。年末年始でお客も多い。私含め5人の仲居で、30人近くの料理の配膳をする。しかも、お客によってメニューが違う。器も違う。料理を出すタイミングも違う。おまけに指示がわかりにくい。「あれとって、そこおいて、あっち置いてきて」暗号にしか聞こえない。共通言語で会話する彼女たちの、仕事は早い。わたしはおろおろし、「なにやってんだい!」とまた怒られる。
しかし、私も言い返す。母譲りで気は強い方だ。「あれってなんですか」「わからないです。教えてもらってません。」今思い返すと、結構、喧嘩腰だった。笑 傍目から見たら相当ピリピリしていたと思う。「分からないことがあったら、ちゃんと聞くんだよ、黙ってないで」と言う、側で見ていた送迎係の男に、「何が分からないかも分からないんですよ!!マニュアルも何も無いじゃないですか!?」とキレてしまった。
私の言葉を聞いて、その男とキレイな湯婆婆は声を上げて笑った。「あっはっはっは」と豪快に。 あれ、もしかして根はいい人たちなんじゃないかと思った瞬間だった。
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