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音楽療法×介護#3「帰宅願望のある方への音楽活用術」

―音楽療法×介護ー
特に介護職、在宅介護をしている人に介護ケアで活用してもらいたい音楽の活用方法をご紹介。
音楽療法では様々な音楽の特性を活かし、実施していきますが、日常生活や介護現場でもその特性を利用することができます。

「帰宅願望のある方への音楽活用術」

帰宅願望は「家に帰りたい」という気持ちが言動に現れることで、認知症を患っている方に多いです。
認知症の方の帰宅願望には、それぞれ理由があります。
慣れない環境で不安になり帰りたくなる、むかし仕事をされていた方が「仕事をしなくちゃ」と思い帰りたくなる、自宅にいるにも関わらず、昔の家の記憶が鮮明で、今いる場所が自宅だと認識できず帰りたくなる、など理由は様々です。

しかし入居施設では家に帰ることはできませんし、通所施設でも帰宅時間までは施設にいなければいけません。
昔の家を思い出している場合も、既に家がなかったり遠方だったりで行けないことが殆どでしょう。

このような不安を解消するため、介護者の皆さんも日頃から工夫されていると思います。
今回はこの「帰宅願望」へのアプローチに音楽を活用していきましょう。

今回の方法はとてもシンプルです。

「一緒に歌を歌いましょう。」

大きな声を出す必要はありません。優しく口ずさむように歌いかければ気持ちも穏やかになります。

この時、できれば隣に座り、目線の高さを合わせて歌いかけることがポイントです。
触られることに抵抗が無い方なら、肩や手を優しくトントンと叩きながら歌うことで、より安心感を得られるかもしれません。

理想的なのは“帰りたくなる前”に歌い始めることです。
一度「帰りたい」という気持ちが生まれると落ち着くまでに時間がかかります。
帰宅願望は不安に起因することが多いので、安心できる環境をこちらから作ることが大切です。

歌う曲ですが、相手の方の好みに合わせたものが一番なので、よく口ずさむ歌や音楽活動をした後に口ずさみやすい曲などがあればそれを使うといいでしょう。

特に好きな曲を一緒に歌えば、より相手の方も集中でき、「帰りたい」という気持ちを抑えやすくなります。

ただ、どんな曲が好きなのか分からない場合ももちろんあると思います。
そこで今回は、一般的に利用しやすい曲をポイント毎にご紹介します。


選曲のポイント①童謡・唱歌


認知症の中核症状の一つである記憶障害によって歌詞を思い出すのが難しくなると、複雑で難しい歌詞の曲は歌いにくくなります。
童謡や唱歌は歌詞が短くシンプルなものが多いので、思い出しやすく歌いやすいのです。

また、認知症の傾向として、最近のことは忘れやすいが昔のことは比較的覚えている、という点も挙げられます。
子供の頃に学校で習う文部省唱歌や、口伝てに聞いた童謡は記憶に残っていることが多いので、ぜひ使ってみましょう。

代表的な曲としては、

・故郷
・春よ来い
・夏の思い出
・里の秋
・たきび


などがあります。
季節に合わせて歌ってみるのもいいですね。
ネット検索で「季節 童謡」などと調べてみると色々な曲が出てくるので、参考にしてみてください。


選曲のポイント②テンポがゆっくりな曲


認知症の方に限らず、テンポが早い曲には高揚感や焦燥感を覚え、逆にゆっくりな曲には安心感や落ち着きを覚えやすいものです。
穏やかな落ち着いた気分で過ごしていただくために、ゆっくりな曲は有効です。
代表的なものとしては、

・赤とんぼ
・朧月夜
・浜辺の歌


などがあります。
ゆっくりな曲を一緒に優しく歌うことで心穏やかに過ごしていただきましょう。

以上、一般的な2つのポイント、
①童謡・唱歌
②テンポがゆっくりな曲

についてご紹介しました。


一番の目的は相手の方が安心して過ごせることなので、その方に合う曲をぜひ見つけてみてください。

歌集の活用

とはいえ、施設スタッフの方、特に入居施設のスタッフの方は、隣でゆっくり歌いかける時間を確保するのが難しいかもしれません。そこでお勧めなのが、歌集です。

こちらは、私の勤めているデイサービスで実際に使っている歌集です。

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市販でも自作でも構いません。
歌の歌詞だけが載った本を手渡し、1曲目の歌い出しだけ共に歌ってみてください。
軌道に乗れば自分で歌い続け、長い時間集中出来るかもしれません。

この時留意する点は、周りの環境作りです。
歌好きな他の利用者さんを集めて歌えば、より楽しく集中して歌えるでしょう。
他の利用者さんに忘れた部分をフォローしてもらえるかもしれません。

逆に、その歌声を他の利用者さんが「うるさい」と感じないよう、場所や利用者さん同士の相性は考慮する必要があるでしょう。
安心して歌える環境があれば、帰宅願望の軽減に繋がりやすくなります。


今回は「帰宅願望がある方への音楽活用術」を紹介してきました。
歌は長い時間集中できるコンテンツです。
音楽療法を実施した際にも「落ち着かない方が1時間座っていられた」との話が多いことは、音楽療法士あるあるの一つです。

施設やご自宅で、帰宅願望にお困りの方はぜひ活用してみてください。
ご視聴ありがとうございました。

【 音活研究部 ― 投稿者 】
Leaf音楽療法センター
音楽療法士 上田 将来
シンガーソングライター/音楽療法士として音楽活動の傍ら、介護職員としてデイサービスに勤務。幅広く音楽を届けるために活動しながら、シニアの毎日を介護ケアという面からもサポートしている。

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