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鳥になりたい

そう言って透はどこかに行ってしまった

透と出会ったのは高校時代

ハンサムだけどどこか近寄りがたくて

授業中いつも寝てばかりいた

燈といると居心地が良いと言って

私達はしょっちゅう出かけたり

実家を行き来したりした

そのうち恋人ごっこにも飽きて

でも一応

恋人みたいな二人だった

月日がだいぶ経っても私達はよく二人でいた

そして私は大学を卒業した後

地元の企業に就職した

可もなく不可もないそんな毎日で

透は何か日中絵を描いて

夜は飲食店で働いてるようだった

そしてまた月日が経って

私はいつしか会社の同僚と親しくなった

彼から結婚を前提に付き合ってくれと告白された時

最近はずいぶん会ってないけど

透に別れを告げなきゃなと思った

彼は私が話し終わえた後

脱力した様子で

鳥になりたいとだけ言って

風のようにどこかへ行ってしまった

時は過ぎて

小学生の娘と幼稚園の息子を連れて

デパートに買い物に行った

透というポスターの文字を一瞬で捉えた時

彼の描いた数々の絵が光り出したような気がした

子どもたちは急に立ち止まって

黙り込んでしまった母親を

不思議そうに見て子どもなりに気を遣って

玩具売り場に二人で手を繋いで走っていった

私は透が描き綴った作品を

一つ一つ脳裏に焼き付けるように見ていった

生物と捉えがたい歪な形をしたものから

女性のスケッチが何枚かあった

透は鳥なりたいと言っていた

本当になったのだろう

彼の姿は見えなかったが

デパートの一角に絵を飾られるくらい

誰かに才能を認めてもらったのだろう

私はとてもじゃないけど

手を出さない原画の値札を見て

ポストカードを全シリーズと画集を買った

私は普通の暮らしを選んだけど満足している

透は鳥のように自分の空を飛び続けて欲しい

1円でもありがたいお気持ち_( ´ ω `_)